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確信 (10)

『……あのさ、ちょっと聞いて欲しいんだけど』  姿勢を正し悠臣がそう切り出すと、父親と母親、妹の奈月が一斉に悠臣に視線を向けた。 『俺が男と付き合ったら、どう思う?』  勢いに任せて悠臣がそう言うと、奈月も父も母もみんな無言で固まってしまった。あまりの空気の重さに衝動のまま口走ってしまったことをすぐさま後悔したが、もう後には引けない。それでも沈黙に耐えられず何でもいいから話を続けようとした時、それを遮るように一番近くに座っていた奈月が口を開いた。 『確認したいんだけど、昔から、そうだったの?』 『え?どういう意味?』  奈月の発言の意図がいまいちわからず、悠臣は首を傾げながら聞き返す。 『ほんとは、昔から男の人の方が、その、……好きだったの?ってこと』  遠慮がちにそこまで言って貰ってようやく理解出来た。 『あぁ、いや、これまでは恋愛の対象は異性だったし、同性をそういう対象で見たことはなかった、けど、今は……』  言いかけて口を噤む。核心部分は曖昧に濁して何となくで話すつもりだったが、これでは誰にも、その対象の相手にさえまだ言っていない本音を曝け出さざるを得ない。躊躇いながらも言葉を続けようとすると、またもや奈月が先に口を開いた。 『……今は、男の人が好きなんだ』  真っ直ぐ悠臣を目を見ながら奈月は言う。 『……多分』 『多分?』 『男に対して恋愛感情抱いたことなかったから、正直俺自身もまだはっきり自覚してるわけじゃないんだけど、でも多分、そうなんだと思う』  言いながら、家族相手に、しかも妹相手に何の話をしているのだろうと少し冷静になり急に恥ずかしくなって居た堪れない気持ちになったが、今更無かったことには出来ない。 『そう、なら良かった』 『……良かった?』  何が『良かった』のかわからず悠臣はまた首を傾げる。 『本当は昔から男の人の方が良かったのに、無理して女の子と付き合ってたのかなって、ちょっと思ったから、そうじゃないなら、まずは良かったなって意味』 『あぁ、なるほど……』 『……その相手って、さっき言ってた、尚って人のことだよね?』  遠慮がちに尋ねる奈月に悠臣も少し緊張しながら答える。 『……うん、そうだよ』 『やっぱり』    そう言うと奈月は笑顔になった。そして一呼吸置いてから続けて言う。 『正直いきなり過ぎてびっくりしたけど、でも今のお兄ちゃん見てたらなんか、わかる気もする』 『……そう?』 『うん、だってあたしさっき言ったでしょ?その人が女の人だったら、上手くいったのかもなって』 『……女じゃないけどな』 『そうだけど、それでもそう思うくらいには表情にも態度にも現れてるよ。……自分では気付いてないだろうけど』  勿論全く自覚していなかった。それでも嬉しそうに尚行の話をした後にこんなことを言い出せばすぐに勘付かれるだろう。可笑しそうに笑う奈月を見て悠臣は恥ずかしさから顔が熱くなる。 『急に言われて思うこととか、聞きたいことはもちろんいろいろあるし、いきなり全部を受け入れるとか正直まだ難しいかもしれないけど、それでも何かに遠慮して、本当の気持ちを押し殺して生きて欲しくはないから、お兄ちゃんの思うようにすればいいって、あたしは思うよ』

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