104 / 110

確信 (11)

 言葉を選びながら慎重に、穏やかにそう言ってくれた奈月を前に安堵したのも束の間、奈月がソファに座っている両親に視線を向けたことで再び緊張が走る。二人は悠臣と奈月が話している間ずっと黙って複雑な表情を浮かべていた。どう声をかけて良いかわからず逡巡していると意外にもいつもは無口な父親の方が先に口を開いた。 『……大事な人だと思うなら、大切にすれば良いだけの話だ』  それだけ言うと父親はソファから立ち上がり、リビングを出て行った。  父親の言葉と態度をどう捉えて良いのかわからず戸惑う悠臣に今度は母親が声を掛ける。 『悠臣が本音を言ってくれたからお母さんも思ったことを正直に話すけど、一番最初に考えたのは、やっぱり結婚とか子供とか世間の目とか、この先もうこっちに戻る気はないのかとか、そういうこと。……それと、友達のままじゃ駄目なのって思うけど、そうじゃないから、そうしたいのよね』  寂しそうな顔をされて悠臣は胸が痛んだが、それこそが悩みながらも心を決めようと考えた重要なポイントだった。 『うん』  戸惑いながらも真摯に向き合おうとしてくれている、その姿勢が垣間見えるからこそ、悠臣は敢えてはっきりと返事をした。 『……そう、なら、自分の気持ちを大切にしなさい』  そう言って母親はようやく笑ってくれた。 『……ありがとう』  目頭が熱くなり、僅かに声が震える。そんな自分を誤魔化そうと顔を上げ短く息を吐いた。 『けど、お父さんはあの感じだと、さすがに納得はしてなさそうだな』  顔を顰め悠臣がそう言うと母親はまた朗らかに笑った。 『戸惑ってはいると思うけど、お父さんはあれで割と駄目なものは駄目ってはっきり言う性格だから、きっと大丈夫よ』    そんな母親の言葉を意外に思って悠臣は目を見開いて驚く。実の父親なのに、悠臣の中でそんなイメージはこれまであまり無かった。 『あ〜わかる。翔吾の前に付き合ってた彼氏家に連れて来た時なんか後ではっきりダメって言われたなぁ。その時はすっごいムカついたけど、それからすぐ無職になって再就職しようとしないし、そのくせ金遣い荒いしですぐ別れたからお父さんの見る目は間違ってなかった』  悠臣は初めて聞くエピソードだったが、その当時はもう実家を出ていたので知らなくても無理はない。 『……多分だけど、それよりもお父さんは嬉しかったんだと思う、お兄ちゃんがまたベース弾き始めたこと』  悠臣からすればあまり実感の無い話で困惑したが、構うことなく奈月は話を続ける。 『お兄ちゃんがまたベースを弾くきっかけをくれた人だから、性別とか関係なく、お兄ちゃんにとって特別で、大事な人だとお父さんも思ってくれてるんじゃないかな。……あたしも、そう思ってるよ』  そう言って奈月は母親と共にとても穏やかに笑いかけてくれた……。  

ともだちにシェアしよう!