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確信 (13)
「あー、やっぱり尚が倒れた時かな。お前にもしものことがあったらって思うと今でも恐ろしくなるし、それと、あの日さ、歩くんがこの家のコーヒーメーカーを当たり前のように使ってるの見て、自分の居場所奪われたような気がして、何となく寂しくなったんだよな」
「……は?」
前半部分は理解出来るが、後半部分の意味がわからず尚行は素っ頓狂な声をあげた。
「歩くんにしても啓太くんにしても、俺が尚と知り合うずっと前からこの家に来てたんだし、コーヒーメーカーの使い方もどこに何があるのかも知ってて当たり前なのにな。……でも、尚にコーヒーを入れてやるのも、朝起こしてやるのも、飯作って一緒に食うのも、全部俺がやりたいって思った」
尚行は目を見開いて、驚いた顔で悠臣の言葉を聞いていたが次第に伏し目がちになり、悠臣が一旦言葉を区切るとまた俯いてしまった。
「ただ、その頃はまだ迷う気持ちもあって、うちの母親も言ってたけど、友達のままじゃダメなのかって、それくらいなら友達の関係のままでもいいんじゃないかって思ってて、でもこの先、お前がもし他の誰かを好きになったらこんな関係は続けられなくなるし、これはもう俺にとって日常の一部だから、誰にも譲りたくねえなって」
相変わらず反応の無い尚行を気にしつつも悠臣は更に続けて言う。
「正直言って今の心地良い距離感とか関係性を崩すのも怖いって思ってたよ。付き合ってもずっと上手くいく保証なんてどこにもないし。けどじゃあそれに甘えてずっと友達のままだったら、俺はずっと好きでいられるかもしれないけど、尚の気持ちが変われば今の関係は終わる。好きなままお前と離れるとか、お前が俺じゃない他の誰かと一緒にいるのとか、そんなの絶対無理だなって思ったら、他に選択肢はないだろ」
腹を括った悠臣はここぞとばかりに思っていることを全て打ち明ける。
「でも、尚のこといつから好きになってたんだろって考えた時にまず思い出すのは、初めてSouthboundの路上ライブ観た日のことなんだよな。だからきっと、初めて尚を見た日からとっくに、尚は俺にとって特別な存在になってたんだよ」
ひとまず今伝えておきたいことは全て言葉にしたように思う。悠臣は一息ついてから改めて尚行の方を向くが、尚行は変わらず俯いたままだ。
「……俺さ、はっきり言っていつも受け身で、だからこういうの、自分の気持ちとか言葉にして伝えるのあんまりやったことなくて、考え纏まんなくていろいろ言ったけど、……まぁ、そういうことだから」
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