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確信 (14)
ここまで言ってもまだ反応の無い尚行に流石の悠臣も少し苛々して来た。
「……つーか絶対落とすとかって息巻いてたの誰だよ、あんなこと言ってた割に何も仕掛けて来ないから、今も正直お前がどうしたいのかいまいちわからねぇんだけど」
悠臣がそう言うと尚行はやっと顔を上げた。その両目は真っ赤になって潤んでいて、尚行がずっと俯いていた理由がようやくわかった。
「それは!ベースの件があったから、余計なこと考えてほしくなかったから、……それくらいわかれよ」
「じゃあベースの件はなんとかなりそうだし、これからはもっとぐいぐい来てくれんの?」
ようやく顔を上げてくれたのにすぐまた目を逸らそうとする尚行に焦れて、悠臣はあえて試すようなことを言う。すると尚行は僅かに頬を紅潮させ悠臣を睨み付けた。
「ふざけんな!」
泣き顔のまま、尚行が声を荒げる。
「話長過ぎるしいろいろ言われ過ぎて全然頭追いついてねぇんだよ、全然信じらんねぇ!」
「え、これだけ言っても?」
ようやくいつもの尚行らしい口調になって、悠臣は内心ほっとしていた。
「全然伝わんねぇ!ごちゃごちゃ言ってないで、俺のこと本当に好きならもっと自分から求めてみろよ!」
強気な言葉とは裏腹に、堪えきれなかった涙が一筋、尚行の頬を伝う。
本当は人一倍繊細で傷付きやすいのに、いつも強がってみせてはすぐに自分の言動を後悔する。悠臣はそんな尚行がいじらしくて可愛くて、愛おしくて堪らなくなった。
「……そうだな」
悠臣が手を伸ばし尚行に触れるとそのまま引き寄せ、正面から力強く抱き締める。
「ごめん」
尚行の耳元で囁くように言ってから悠臣は両腕の力を緩め、両手で包み込むようにして尚行の頬に優しく触れると、初めて悠臣からキスをした。名残惜しそうに唇が離れると、悠臣は尚行の目をじっと見てから微笑む。
「……尚、好きだ。ずっと一緒にいよう」
悠臣の行動と言葉がまだ信じられないとばかりに目を丸くして固まっていた尚行は忙しなく瞬きをした後、頬に添えられたままの悠臣の両手首を掴む。頬と掌から伝わる悠臣の体温で、ようやくこれは現実なのだと頭が理解した。
また両眼を潤ませている尚行に気が付いて、悠臣は互いの額をくっつけるとあやすように尚行の頬を撫でる。悠臣の大きな掌の感触が心地良くて、愛おしくて、うっとりとした顔で尚行は目を閉じた。
しばし幸福感に浸った後、尚行がゆっくり目を開けると、至近距離で二人の視線が絡み合う。
少し照れくさそうに、だけどとても嬉しそうに、ようやく全てを理解した尚行は悠臣に向かって、やっと笑ってくれた……。
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