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第9話 キスも好き

 どれくらい、意識がトんでいたのか、よく解らなかったが、まだ、奥には玩具が埋め込まれていたし、動き続けていた。  荒い息を吐きながら、郁は、ちらっと煌也を見やる。煌也は、力が抜けている郁を支えながら、「良くイけたね」と額にキスをした。やわらかくて、温かい煌也の唇。それが唇に欲しくて、郁は、顔を上げる。 「ん?」 「……キス……」  郁が強請ると、煌也は、ふっと笑って郁にキスをしてきた。そっと触れるだけのキスを一回だけ。  もっと、深いキスが良い郁には物足りなくて、「もっと、してくれなきゃ、ヤだ」と詰る。 「郁、キスも好き?」 「……うん、煌也となら……好き」  前に、店内にいた男にキスされたことがあった。それで、煌也は機嫌が悪くなったのを思い出す。 「ね、煌也」 「なに?」 「……煌也は、俺以外と、キスするの、好き?」  郁の質問に、煌也が面食らったように、目を見開く。 「勿論、好きだけど、どうしたの、郁。急に……」 「俺は……っ……煌也としか、……したくない、けど、……煌也は……どうなのかなって……?」  奥は、まだ、刺激が続いている。一度、絶頂に達していて、ナカは、過敏になっていたが、一旦、大きな熱が引いていたので、いくらか、冷静だった。  刺激は、確かにピンポイントだが、単調でも有る。だから、馴れてしまうというのもあった。 「……あ……♥」  郁が馴れてきたのを感じたらしく、煌也が、刺激のパターンを変えた。先ほどとはちがって、時折止まったり、するランダムな動きになって、途端に郁が乱れ始める。 「郁は、俺が、他のヤツとセックスしても平気?」  郁の喉が跳ね上がった。 「あ―――っ♥」  その細い顎にキスしながら、煌也が聞く。 「郁。………たとえば、お前の前で、俺が……他の子のこと、めちゃくちゃに攻めてたら、イヤ?」  ぼんやりする頭で、郁はさんなシチュエーションを想像してみた。  さっきフロアにいた、皆から愛撫を受けていた人を―――煌也が一晩中犯し続ける。  郁は―――今、この鏡部屋のナカを見ているギャラリーのようにそれを、見ているだけだとしたら……。 「……俺は……、それ、ちょっと、イヤ……だな……んっ♥」 「へぇ、イヤなの?」 「だって……、ここ、お願いしたら、他の人もしてくれそうだけど……、煌也ほど、タフな人居ないだろうし。煌也、おっきいし……」  郁の言葉を聞いた煌也の笑顔が、引きつる。 「身体目当てかよ」 「えっ……? だって、俺たち、……それしか……ない……っんん♥ ゃっ、あっ、♥ なっ♥ 煌也、急にっ、激し……っ♥」  急に、奥に入った玩具の出力が上げられた。強い振動と、内部で蠢き回る、感触。絶え間なく、かるく、とんとん♥ と会陰を刺激されて、一気に快感が駆け上がってくる。 「……ったく……、お前、一晩中ヤれるなら、誰でも良いのかよ」 「あっ……っ♥ あんっ♥ あっ、ああっ、もっ♥ ダ……、また、イッ……っイッちゃ……♥ イっちゃう……♥」  身体がビクビクと震えて跳ね上がる。 「……打ち上げられた魚みたいだな」 「すごいな、イッたばっかなのに」 「郁ちゃん、俺も混ぜてくんないかな」  ギャラリーが興奮して声が上がる。 「……郁」  耳元に、甘い声がする。煌也の甘い声は……時々、危険だ。聞いているだけで、頭がおかしくなりそうだった。 「……あそこの男たちに入って貰って、代わる代わる犯されたい……? 店中の男から、良いように使われてみたい……?」  郁の喘ぎ声にかき消されて、誰にも聞こえないくらいの声だろう。  声音は甘いが、声は酷く冷たい。  沢山の男たちから―――弄ばれる、という構図を一瞬想像して、少しだけ興味があるとは思ったが……。 「……ヤだ」  と郁は、煌也に縋り付く。 「ん?」 「……煌也一人が朝まで頑張ってくれたら良いだけだから」  郁のその言葉に、思わず、煌也は笑ってしまった。 「朝まで?」 「うん、朝まで。……煌也だったら、二晩でも三晩でも、平気でしょ♥」 「……さ、すがに、俺も、そこまでは……」 「俺のこと、満足させて♥ ……オモチャじゃなくて、そろそろ、煌也が良い♥」  煌也は、言われたとおりに、郁の奥から玩具を取り出して放り投げる。郁の体温で、温まっていた玩具は、鏡に当たった。その箇所が、ほんのりと曇る。  郁の奥は、急に玩具を奪われて、空隙を作っていた。今まで玩具が入っていたそこは、その形をとどめていて、ひくひくと動いている。真っ赤に充血した内部の肉壁まで見えて、周りの男たちが、息を飲む。 「……綺麗なケツマンコだな……」 「マジでエロいな……」 「あー、あそこにブチこみてぇ。なあ、あんた……郁ちゃんは、Mなんだから、他人棒も欲しいだろ? もっと教え込んでやれよ!」  下品なヤジが飛ぶ。  煌也は、ギャラリーにも郁にも見せつけるように、鏡に向かって足を広げさせた。 「郁。見える?」  煌也に言われたが、恥ずかしくて、鏡から目を背ける。 「郁。見なさい」  次は、『見える?』ではなく『見なさい』だった。  命じられて、仕方がなく、鏡を見る。  後ろの男たちの言うような、淫猥な光景が広がっていた。

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