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第21話 リクエスト

 金曜日、いつものようにブルー・ムーンは混雑していた。  とはいえ、まだ、本格的なプレイをしている人は少なくて、触り合いをしながら、イチャイチャしている程度の客が多かった。 「郁、ちょっと飲む?」 「うん」  煌也に誘われて、バーカウンターへ行くと、バーテンダーが「先週は、いらっしゃらなかったから、残念がってた常連さんいましたよ」と郁に声を掛けた。  確かに、煌也と出会ってから、毎週ここへ来ていたので、ギャラリーもそれなりにいるのは知っているし、顔見知りも沢山いたが……。  なんとなく、見世物ではないのに、という気持ちにもなった。見て貰うと興奮するのに、見世物にはなりたくない―――なんとも矛盾した気持ちになる。 「マスター、俺には……何か軽いのが良いな。甘い系で……なにかある?」 「勿論カクテルですので、沢山ございますが……そうですね、では、アマレットジンジャーを」 「ああ、それでいいよ。郁は?」 「俺も、カクテルはあんまり知らないんですけど、さっぱりした系のが良いです。軽めで」 「……では、ダイキリを。ラムとライムジュースで作ります」 「イメージが湧かないですけど、それで」  畏まりました、とマスターは受けて、カクテルの支度をする。 「普段、ここに来ても、あんまり酒を飲まないで、ヤりっぱなしだから、ちょっと勿体ないかなと思って」  煌也が呟く。 「……焦らされてる……感じがするけど」  郁が、視線を送ると、煌也が、身をかがめて、小さく笑う。 「焦らしてるつもりはないけどね……。たまには、見学も良いんじゃない? と思って」  煌也が顎で、店内を示す。  視線が、チラチラと郁を見ているのが解った。  また、煌也と郁が、セックスを始めるのを、期待しているのだろう。 「……やっぱり、郁さんみたいに魅力的な方が、積極的に、素敵な姿になっていると……店内が盛り上がりますよね」  マスターは、郁にダイキリを手渡す。小さなグラスに入った、とろんとした乳白色のカクテルだった。一口飲むと、ライムの酸っぱさと、ラムの味わいが、口いっぱいに広がる。食事をしてきた後、口直しには、丁度良いカクテルだと郁は思った。 「俺、これ好きです」 「俺も、ダイキリは好きだよ」 「……煌也は……、バーとか、よく行くの?」 「一人では、あまり来ないかな。付き合い程度だよ」 「それにしては、なんか、場慣れしてる感じ」 「……回数だけはあるからな……。会食の前に、バーでちょっと話をしてから、会食……みたいな使い方もするし」  煌也も飲み物を受け取って、飲み始める。 「今日……、郁は、何からしたい?」 「……そうだなあ……、いつもみたいに……、いろいろして欲しいけど」 「前回は、鏡だったよね。……あれ、郁もお気に入りだったみたいだけど、今日は、先客がダラダラしてるみたいだね」 「うん」 「今日は、一杯我慢させたから……なんでもして上げるよ。郁」  耳元に、甘く囁かれて、郁は、頭の中がクラクラしてくる。急速に酔いが回ったような、感じだった。  肌が、熱くなっていく。 「……俺は……、煌也が、してみたいことなら……なんでも良いんだけどな……」  くすっと、煌也が笑う。 「俺だって、郁がして欲しいことをしたいよ。……じゃあ……どうしようか。その辺の人に、リクエスト、聞いてみる?」 「えっ……?」  煌也は、一番近くにいた『その辺の人』に、「ねぇ」と声を掛けた。郁も見知った顔だった。この間、電動の刷毛を持ってきてくれた、横川という男だ。 「……ん? あ、煌也さん。郁ちゃんも……今日は、まだ、プレイしないの?」 「そろそろしようと思うんだけど……、何か、さ、プレイのリクエストとかないかなと思って」 「あー……じゃあ、この間、アレ使ってなかったでしょ」 「アレ?」  郁は首を捻る。 「そうそう。フサフサの付いたプラグ♥ あとは、郁ちゃん、この間、電動プラグでも気持ち良くなってたみたいだから、ナカをしても良いと思うんだよね」 「確かに、プラグ、使ってなかったね……」  煌也の瞳が、怪しくきらめいたような気がした。 「……郁、今日も、玩具は持ってきてるでしょ?」 「あ、うん……」  会社には持っていくのが忍びなかったので、すっぽん料理屋の近くのコインロッカーに入れて会社に行き、煌也と会う前に回収しておいたのだった。 「じゃあ……、それ、使ってみようか」 「おっ、楽しみ♥ また、郁ちゃん、彼氏に沢山気持ち良くさせて貰いなね♥ 僕も手伝えることがあったら、手伝うよ」  横川が「あっち、今空いてるから」とプレイルームを示す。 「そうだね。じゃ、行こうか。郁も……もうそろそろ、我慢の限界でしょ?」  煌也の言う通りだった。 「うん……♥」  郁は、期待しながら、煌也と一緒にプレイルームへと向かっていった……。  

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