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第8話

***  琉星と契約を結んでサービスを始めてから、四週間が経った。残りのサービスもあと二回を切り、希声にとってあっという間の一ヶ月となった。  もうすぐ契約も終わるとなると、亡き恋人の声で琉星と会話することに、こちらもだいぶ慣れた頃だ。  相変わらず琉星はあそこに行こう、これをしようなどデートの誘いや提案をしてくるが、「そうだね」や「僕も行きたいな」と同調していれば、琉星がそれ以上踏み込んでくることはない。お互い実現しない前提で約束しているのだと念頭に置いておけば、何ら問題はなくその時間をやり過ごすことができた。  琉星から返信がきたのは水曜日の夜だ。メールには、指定口座に報酬金を支払ったという旨の内容が書かれていた。  月末が近いということと、直前になって相手が慌てないようにということで、希声は期限より一週間ぐらい余裕をもって昨夜振込先の口座をメールで送っていた。もちろん支払いもメールへの返信も、一週間後の支払い期限当日で構わないと文の最後に添えていた。  もう振り込んでくれたのか。希声は純粋に感心した。  律儀というか真面目というか。最初は敬語もろくに使えない学生だと思っていたが、今は常識ある社会人なんだなと改めて思った。  琉星からメールがきた翌日。前日の生配信後に動画の編集作業で朝の五時まで起きていたこともあって、希声が起きたのは昼もだいぶ過ぎた頃だった。 「うっわ……もう三時かよ」  うつ伏せで枕を抱きながら、スマホで時間を確認する。十一時にセットしていたはずのアラームは無意識に自分で止めていたらしい。  月曜日にぐうたらしていることに関しては動画配信を初めてからすぐに慣れたが、西日が主張し始めている時間に起きるのはさすがに今でも罪悪感がある。    希声は重たい体を引きずってシャワーを浴びたあと、大振りのパーカーを着て外に出た。コンビニで住民税の支払いを済ませ、駅前のマックで朝食兼昼食のハンバーガーとポテトをコーラで胃に流し込んだ。  このまま帰ってもよかったが、やらなければならないことは昨日のうちに終えている。今日は夜に琉星との電話があるだけだ。それまで時間がある。  どうすっかなあ、と店の窓から外を眺めていると、すぐ横にある駅のホームで女子高校生たちがインカメラで自撮りしていた。  そういえば新しいウェブカメラがほしかったことを思い出す。実際の購入は来月の予定だったが、琉星が早めに報酬金を振り込んでくれたおかげで気持ちに余裕がある。今のうちにいくつか目星を付けておいてもいいかもしれない。 希声は包み紙や紙ナプキンの乗ったトレイを片付け、店を出たその足で駅へと向かった。  電車に乗ってから上下スウェットなことに気づいたが、誰に会うわけでもないし、まあいいか。  希声はドアが閉まる音を後ろに聞きながら、ワイヤレスイヤホンを耳に挿した。

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