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第10話
普段なら鬱陶しいと思う販売員の営業だったが、こちらも琉星と会うのが初めてではないということもあってか、気分よく買い物ができてしまった。
予算内に収まったし、性能もこれまで買ったカメラの中で一番良い。流されるまま結果的にいい買い物をしたのがまた悔しかった。
誰かのアドバイスを聞きながら買い物をするなんていつぶりだろうか。琉星の亡き恋人として話しているときは気にならないのに、素の自分で琉星と接していると、なんとなく調子が狂う。最初の依頼メールを受け取ったときからそうだった。
気づかないうちにだいぶ長居していたらしい。店内には閉店時間を報せる蛍の光が流れ始めている。
「このあと時間ありますか?」
財布をスウェットのポケットにしまっていると、会計カウンター越しに琉星が言った。
「今日はすぐ上がれると思うんで、ちょっと飲みに行きませんか? おごります」
唐突な飲みの誘いに、断る理由が咄嗟に浮かばなかった。
「さっきお礼を直接したかったって言ったでしょ。あれは本当です。途中から営業になっちゃいましたけど」
すみません、と苦笑しながら琉星が鼻の下を掻く。
「でも時間が……」
「この近くに安くて早くてうまい店があるんです。だから、ね、ちょっとだけ」
「はあ」
明日が早いとか、家にいるペットにエサをあげなくちゃいけないとか、断る言い訳なんてあとになってからいくらでも思いついた。
でも断らなかったのは、ちょうど腹が減っていたから。琉星が一生懸命買い物に付き合ってくれたからだ。お礼をしたいと言われて、悪い気はしなかったから……。
「じゃあ少しだけなら」
希声は顔の前で指をつまむように見せる。
「ありがとうございます! すぐに終わらせて連絡しますね!」
琉星はニカッと笑ったあと、バックヤードへと小走りに戻って行った。
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