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第11話
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店舗外のガードレールに寄りかかりながら待つこと十数分後、ワイシャツにネイビーのスラックスという姿で琉星は現れた。
店舗で見たときは店オリジナルの赤いベストを着ていたせいで、いかにも販売店員という見た目だったが、ベストを脱いだ琉星はしっかり新卒二、三年目のサラリーマンという風に見えた。
店舗で接客されているときは気づかなかったが、初めて会ったときの毛先を遊ばせた感じのヘアセットとは違い、髪が根本から毛先までワックスで固められている。初めましてのときよりも、少し大人びて見えた。
「締め作業とか大丈夫だったんですか?」
スマホをしまって訊くと、琉星は「同僚に任せてきちゃいました」といたずらっぽく笑った。
琉星が案内してくれたのは、線路沿いにある肉バルの店だった。駅も近く、店内は暖色系の明かりと客の話し声で程よく賑わっている。女子会やデートに使われそうな小洒落た雰囲気を地元感たっぷりなスウェットの下の肌でひしひしと感じ、本当に安いのか心配になる。
「ほら、安いでしょ?」
琉星がパウチされたメニューをこちらに向けて見せる。メニューには確かに二度見するほど安い値段のステーキや生ハムなどの料理が並んでいた。せんべろセットなんて、千円で酔えるという謳い文句のセットメニューまでもある。
「綾戸さんは苦手なものとかアレルギーとかありますか?」
「いえ、特には」
「じゃあ適当に頼んじゃいますね。あ、今日燻製牡蠣のオリーブ漬けがある! これ美味しいんですよ」
琉星はキッチンカウンターの中にいる店員を呼ぶと、慣れた様子でメニューを注文した。行きつけの店なのだろう。難しい横文字のメニューを流暢に口にしていた。
琉星から聞いていた事前情報の通り、酒も料理もすぐに運ばれてきた。燻製牡蠣のオリーブ漬け、ラタトゥイユ、生ハムとピクルス、スキレットの上で焼かれたステーキなど。さまざまなメニューが狭いテーブルの上に並ぶ。
希声はハイボールを、琉星は海外産のビール小瓶を手に、「お疲れさまです」と控えめに乾杯する。一口飲むと、アルコールが胃に沁み渡って空腹感がより増した。
馴染みの店に連れてきてくれたのだ。気を遣って少ししか食べないというのも失礼だろう。希声はテーブルの隅にある銀のカトラリーから割り箸を取った。
「すいません。先食べてもいいですか」
箸を割ったあと、取り皿にひと通りのつまみを取り分ける。
「あ、はい。もちろんです」
琉星が頷いたと同時に食べ始め、希声は第一陣の取り分け分をペロリと平らげた。ひと息つくようにハイボールの入ったグラスを傾け、ゴクゴクと半分ほど飲み干す。琉星は感心したように言った。
「いい食べっぷりですね」
「胃空っぽの状態で飲むと酒回るんで」
「ああ、なるほど」
胃が少し満たされたところでペースを落としつつグラスを運んでいると、琉星が「意外です」と目を細めた。
「クールなイメージは変わらないけど、綾戸さんってもっと上品に食べたり飲んだりするイメージでした。スウェット着るイメージもなかったし」
「ぁあ?」
思わずドスの利いた心の声が出てしまう。咄嗟に口元へ手をやり、「あ、すいません。いつもの癖で……」と態度の悪さを反省する。
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