12 / 53

第12話

 昔から顔から得られるイメージで自分という人間を判断されるのが嫌いだった。十代や二十歳そこそこの頃は笑って誤魔化していたが、そういう反応を取っているとますます舐められる、そして利用されると知ってからはあえて強気に返すようにしていた。 「俺、こんな顔してるじゃないっすか。それだけじゃないと思うんだけど、上京してから見た目でいい思い出がなくて。イメージで話されるのはちょっと……って、古波倉さんには関係ないことですよね。驚かせてすみません」  琉星はキョトンとした顔で答えた。 「こんな顔? すごく綺麗じゃないですか」  至極当然というように、琉星は顔を横に傾けた。面と向かって綺麗と言われたことは何度もある。言われ慣れているはずなのに、琉星があまりにもさも当然という顔で言うから、妙な気恥ずかしさに襲われた。 「でも俺の言ったことが綾戸さんの地雷を踏んでしまったのならごめんなさい。これから気を付けます」  琉星はペコッと頭を下げ、素直に自分の非を認めた。 「それと綾戸さん、俺のことは苗字じゃなくて琉星でいいです。俺の方がたぶん年下ですよね?」 「まあそうっすね。でもお互い社会人だし、上の名前で呼び合っても別に問題はないかと」 「苗字で呼ばれると仕事っぽくて落ち着かないんですよ」  琉星はこちらの有無を言わさず被せてきた。ここも仕事の付き合いみたいなものだろ、と思った。面倒だったので「じゃあ琉星君で」と希声が折れることにした。  飲みに誘われたときも感じたが、琉星はやけに距離を縮めようとしてくる。お礼をしたいから、という理由だけでは弱い気がした。  この男は何を考えているんだろう。こちらの容姿を褒めてきたこともあってか、琉星に対して緩んでいたはずの警戒心を再び張った。  琉星が希声に依頼してきたきっかけは恋人の死だ。週に二回の電話でのやり取りをする中で、こちらに情が移ったり恋人の面影を見たりしてもおかしくない。  琉星の言動から察するに、いまだに恋人への気持ちは薄れていない。だがそれは心だけの話だ。体に関しては、一人で寂しい思いをしているのかもしれない。  琉星は整った顔立ちと清潔感のある見た目をしているのだ。多少強引なところもあるが、食事などに誘う際のスマートさも兼ね備えている。恋人が亡くなってから二年。その間に体が寂しいと思ったときは相手を食事へと誘い、酒に酔わせてホテルに連れ込んで自分の欲を鎮めていたのでは……と、もしも違ったら相手にかなり失礼な妄想を膨らませる。  考え過ぎだとは思わない。世の中には、相手の意思など無いものとして触れてくる人間がいる。相手がどんなに抵抗しても自分の欲を押し通し、服を剥いでくる人間がいるのだから。  琉星に対して疑いの目を強めていたが、向こうは希声の警戒に少しも気づいていないようだった。 「希声さんは次何飲みますか?」  とドリンクメニューを差し出してきた。いつの間にかこちらまで名前呼びになっている。  琉星はおごると言っていたが、後腐れを残さないためにもここは割り勘にしてもらおう。希声はそう決意して再びハイボールを頼んだ。  

ともだちにシェアしよう!