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第20話
「もう時間ですもんね。あ、希声さん」
部屋のドアを開けようとした瞬間に呼び止められる。希声は「ん?」と振り返った。
「今日会ったときから思ってたんですけど、もしかして髪切りました? 前もかっこよかったけど、爽やかになってますますかっこよくなりましたね」
自身の頭らへんを指差しながら、琉星が微笑んだ。他に意図なんてない、本当にそう思っている顔だ。
「……」
言葉が出てこなかった。琉星は最初から気づいていたのだ。自分のことを見ていてくれた。接客販売の仕事をしている男にとって、他人の変化に気づくことなんてたいした意図なんてないに決まっている。
それなのに――。
「お、おう」
不自然に声が上擦る。希声は逃げるようにドアを押して開けた。今はとにかく、琉星に顔を見られたくなかった。
顔が熱い。髪を切ったことに気づいてもらえて嬉しい。カッコいいと言われて照れくさい。今日はたくさんの笑顔を見ることができて、自分の心はこんなにも満たされている。
ああ、くそ。どうやら開けてはいけない扉を開けてしまったのかもしれない。
部屋のドアが閉まる音を後ろに聞きながら、希声は髪を切ったことをちょっと後悔した。
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