59 / 172

第59話

 一瞬、驚きと躊躇が混じった瞳に、柔らかな安堵の色が浮かんだ。 「ありがとうございます。お言葉に甘えて遠慮なく」 「はい、どうぞ」  俺は改めて背筋を正す。 「諜報員時代、伝令任務で王都との往復をしておりまして、その時、勇者様とお顔を合わしています」  えっ、えっ、えっ? 「何度かお話した事もありますよ」  えーっ! 「なので初対面ではありません」 「ごめんなさいっ」  とんだ失礼を。 「いえ。よくある事なので」  にっこりされると、ますます胸に罪悪感がのしかかる。  ほんとうに記憶にないし、思い出そうとしても記憶に残っていない。 「気にしないで下さい」 「当人がそう言っているので、お気になさらず。ヒイロ様」  二人から慰められているように聞こえる…… 「これからは気をつけます」  アハハ  三者三様の思いで乾いた笑いが響いた。 「私の部下なので、認識したら遠慮なくこき使ってやって下さい」 「影が薄いので、突然声をかけられて緊急任務を請け負うなんて事がありませんから、結構時間に余裕があります。認識したら、お声がけ下さい」  アハハ  『認識したら』というのが、地味にハードル高い。 「お時間です。そろそろ謁見の間へご移動下さい」

ともだちにシェアしよう!