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第75話
「ヒイロ」
表情は読み知れない。
黒のベールが素顔を隠す。だが、声はあたたかい。
「ありがとう。一国を預かる最高責任者として礼を言う。世界を救ってくれた事、希望を信じる事を疑わない事、希望を作ってくれた事。
君が灯した希望の火を、私が守っていくよ」
ヒイロ、感謝する……
あたたかな声に安らぎを覚える。
まるで声に包まれているみたいだ。
「陛下よりの直々のお言葉、恐悦至極にございます」
フフ……
(え?)
ふわりと降ってきのは、押し殺して小さく笑った声だった。
俺、変なこと言った?
もしかして敬語、間違えた?
「ヒイロ……」
柔らかな声が、ふわりと……
「かしこまるな」
ふわりと……
「いつものヒイロでいてくれ。その方が私も嬉しい」
大きな手が俺の頭を撫でている。繊細な指が髪を梳いて。
「はい、王様」
「よしよし」
王様、頭撫でるのやめてくれない。俺、そこそこの大人で子どもじゃないんだけど〜
(王様、気に入ったのかな?)
頭の形がピッタリ手にフィットするとか?
なんだか気持ちいいな。
気持ち良くて眠くなってきちゃう……
(って!寝たら大変だ!)
謁見の場で居眠りした勇者ヒイロと教科書に載ってしまう。
「あのっ、王様」
「ん?どうした」
「お借りしました王家の宝刀・アイスファングをお返ししました」
氷の如き刀身を持つ、アルファング王国に代々伝わる伝説の剣を王様は惜しげもなく俺に貸し与えてくれた。
魔王を倒せたのも、この王剣の力が大きい。
「ありがとうございます。アイスファングが俺を助けてくれました」
「私にできる事をしたまでだが、君の力になれたのならば嬉しいよ」
「陛下。宝刀アイスファングのお改めを」
髪をなでていた手が離れる。王様は頷くと、アイスファングを携えた近衛兵の方へ踵を返した。
…………チッ
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