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第76話
(チッ……)
……って、なに?
(チッ?)
微かに聞こえた。けれど確かに。
(舌打ち?)
どうして王様が舌打ちするの?
なんのために?
(機嫌を損ねる事した?)
そんな事はなかった筈だ。
謁見は粛々と進んでいる。
さっきまで王様は俺の頭を撫でて話していた。
何かあったとは考えにくいんだけど。
(いつもの穏やかな王様だよな)
踵を返して、俺に背を向けた王様は王剣の場所へ向かう。
「へ、陛下っ。ここ、こちらにごじゃいますっ」
……あ。
兵士さん、噛んだ。
声が裏返ってるのは、どうしてだ?
おごそかに王剣を差し出す手……震えてる?
でも王様は、いつも通りだし。
あぁ、そうか!
王国に先祖代々伝わる由緒正しき剣だ。落としたりしたら大変だから、緊張してるんだ!
膝を折り、王様が丁重に吟味する。
そうして剣を差し出す兵士に視線を流した。
ゴゴゴゴゴオォー
(なに?)
この轟音。
真っ黒いオーラが王様から流れ出て……
ゴシゴシ、ゴシゴシッ
「あれ?」
真っ黒いオーラが……
「どうしたんだ?ヒイロ。そんなに強く目をこすってはいけないよ。傷ついてしまうからね」
「……はい」
流れてない。
俺の見間違い?
ゴゴゴォーという音も聞こえない。
「……いつもの王様だ」
「ん?」
「いえ、なんでも!」
なんでもない。
穏やかで優しい王様で、やっぱり俺の見間違いだったんだ。
音も空耳だったみたい。
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