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第77話

 王様がチッなんて舌打ちする筈ないんだ。 「手入れが行き届いている。私の剣を大切に使ってくれたのだね」 「当然です」  お借りした物なのだから。 「王様」 「なんだい?」 「私の剣って?」  王国の剣を差し出すなのだから、王様が「私の剣」と言っても何ら構わないのだが、それだけじゃない気がした。 「あぁ、その事なら……」  にこやかに王様が頷いた。 「昔、冒険者をしていてね」 「王様が!?」 「私だって生まれて王様だった訳ではないよ。諸国見聞の旅をしたんだ」  あ……  王様……いや、当時は王子様か。将来のために各国の世情を知るのは大切だ。 「王都や帝都を訪れたり、農村地を見たり、村の人とも話した。民族衣装を着せてもらった事もあるよ」 「民族衣装!?」 「おやおや。王様はいつもいかつい格好をして、眉間に皺を寄せていないといけないのかな?」 「そんな訳じゃっ。俺も王様の民族衣装見たかったなぁって」 「なら、今度私と一緒に行こう。そうすれば見られるよ」  俺が王様と一緒に旅!? 「でも公務が」 「左様でございます!陛下におかれましては、我が国の公務を優先して頂かねば」  クルリ。  声がした方向。  王剣を預かる兵士さんを王様は見返した。 「………………は?」

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