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第116話
二人だ。
一人の王宮兵士は跪き、背後に控えるもう一人の兵士は、白い布に巻かれた何かを抱えている。
国王直属の近衛騎士団が動じる事はないが、どこかザワついている。
目には見えない。
声こそ聞こえないが、歯車が噛み合っていないというか……
何かがおかしい。
サッとお兄様が小さく右手をかざした。
たったそれだけで空気が静まり返る。
不安定な静寂に、白い静寂が上書きされて、場の空気が落ち着きを取り戻した。
「聞こう」
「はっ」
跪いた王宮兵士が敬礼した。
「これを...…」
後ろの兵士に促した。
小さく頷くと、抱えていたそれから白い布がバサリと剥がれた。
「ひっ」
息を飲んだ声が引きつった。
腕!
(人間の右腕)
否。
人の腕じゃない。
正確には、人の右腕に似せて作った金属の腕だ。
良かった……と思って、内心息をついた。
魔王はもういないのに、誰かが犠牲になるのは嫌だからね。
すると、この腕は?
(人形?)
金属のいわゆるサイボーグとかアンドロイドの類なのだろうか。
高温の炎の残滓が至る所に見受けられる。
全体が焼け焦げて、一部は溶解している。これではもう、腕として機能しないのは一目見て明らかである。
「ほかは何も見つかりませんでした。高熱で溶かされたものかと」
「腕一本……」
冷静な声の裏でわずかに苦いものが先走った。
「わざと置いていったか」
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