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第125話

 声は涼やかに、不意に聞こえた。 「シュヴァルツの軍は牽制になっている。陽動をかけたのであろうとも、騎士団長の軍がいるというだけで、相手は大きな事は起こせない」  冷静な響きを、声ははらんでいた。 「戦わずとも、既に十分な戦果を上げているよ」 (お兄様には……)  戦局の先が見えている。  国王という立場が、そうさせるのか?  否。それができるから、国王なのだろう。 「……寧ろこの状況は、私に有利だ」  フッと、仮面の下の素顔が笑った気がした。  俺……  分かってしまった。  お兄様が今、なにを考えているのか?  戦略の鍵は、お兄様の掌中にある。 (そして、それは既にそろっている)  お兄様は自ら戦局を動かそうとしている。 (けれど、どうやって?)  国の外と内で、兵力が二分されている。城内の兵力は少ない。  残存兵力をかき集める?  しかしシュヴァルツ不在の王宮で、誰が指揮を取るんだ?  そもそも小競り合いが起きて、怪我人も出ている。兵力で脅して引き下がるとは思えない。 (待て)  そもそも脅す必要がない? (けれど、それは……) 「お兄様ッ!」  声はかき消された。 「相国殿をお通ししろ。くれぐれも丁重にな」

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