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第6話 雪花の舞う夜に 4
俺が一欠片も残さず食べた後の皿を洗っている間、陸は飾り付けたガーランドやイルミネーションライトを片付けてくれた。
風船は萎むまでそのままにするつもりらしい。
先に片付け終わった陸は、乾燥機に皿を並べている俺を後ろから抱き締めた。
「まだ終わってない」
「知ってる」
「確信犯か」
「でももう終わるだ、ろ」
最後の一枚は陸が乾燥機に入れ、透明な蓋をするとタイマーのつまみをぐるりと回す。
ゴォ……と低い音が鳴り始め、多くの皿が嵐に襲われた。
「お疲れさま」
俺の体をくるりと回転させた陸はそのまま唇を重ねてきた。
体格的には大差ない。
陸が少しだけ背が高いだけだ。
だと言うのに、正面で深いキスをする時はいつだって俺が呼吸困難に陥る。
陸だってキスの経験は俺としかないはず。
違いは今もわからないままだ。
舌を絡めるとザッハトルテの味がする。
それが俺のものなのか、それとも陸のものなのかわからないほど深く口付けを交わす。
気が付くといつの間にかシャツが捲られ、陸の手が背中を這い回った。
衣擦れよりも強く、ただ触れるより弱い力加減で背骨をなぞられると、尾てい骨にビリッと電気が走る。
その刺激はそのまま前の方へ広がった。
これ以上はまずい。
「り、く……陸、なぁ……」
「ん?」
太く逞しい腕をタップし、息継ぎの合間に陸の名を呼ぶ。
何度目かの呼びかけで、ようやく陸は唇を解放してくれた。
だが、すでに手遅れだ。
俺の中心は痛いくらいに昂ってスウェットを押し上げていた。
それに気付いた陸は、俺のそこを穴が開きそうなほど凝視している。
「見るな馬鹿」
「なんでだよ見るよ」
「恥ずかしい」
「俺も一緒だ」
陸は俺の手を取ると、真っ直ぐにその局部に導く。
自分の昂りを隠すことに必死だった俺は、その時になってようやく陸も同じだと気付いた。
固くて熱くて、俺よりも大きいものが声高々にその存在を主張している。
鼓動に合わせて震える感覚は生々しい。
びくりと震えた手を引こうとすれば、強く握られて陸の雄により一層押しつけられた。
「あ……」
「な?」
耳に寄せられた唇から艶めいて濡れた吐息が漏れる。
首筋がぞわりと粟立った。
それは俺のものに伝わり、その体積を増やす。
「ベッド、行きたい」
小さく蚊の鳴くような声でねだれば、掴んだ手はそのままに引かれ、リビングを後にする。
少し寒い廊下を陸の導きを頼りに歩く。
前を行く彼の耳は、薄暗くても赤くなっていることがわかった。
連れ込まれたのは俺と陸の部屋だ。
クイーンサイズのベッドとサイドチェスト、ハンガーラックが置いてあるだけのシンプルな部屋だ。
クローゼットはあるが、ファッションにこだわりがなく物欲もない俺と陸は、その三分の一を持て余している。
暖房の効いていない部屋は肌寒い。
かろうじて部屋の電気は点けたが、エアコンと加湿器のスイッチを入れるだけの理性は俺も陸も持ち合わせていなかった。
ベッドの上に乗り上げた途端、唇を交わしながら、もたつきながら服を脱がせあった。
風呂で見ていたはずの陸の体。
ベッドの上だと、より一層雄の色香が立ち昇っている。
糸で引かれるように首から胸、脇腹へと手を這わせると、向こうから俺の手に吸い付くような感覚がする。
パズルのピースがカチリと嵌ったような、そんな感じだ。
俺たちは二人でひとつなんだと、体が教えてくれた気がした。
「大地」
顔を上げれば陸と視線が交わった。
いつか見たことのある色欲に濡れた顔。
激しい情を孕んだ瞳は蕩けているが、同時に舌舐めずりをした虎のように鋭く光っている。
明確な欲をぶつけられ、体がひくりと揺れる。
「り、く……ぅん、ふ……」
戦慄いた唇は腹を空かせた虎に貪られる。
何もかもを食い尽くすような激しい口付けは俺の思考回路を破壊した。
好き、好きだ、愛している――。
記憶を失くしても俺は陸に惹かれた。
陸はそれだけ魅力的で、それと同時に俺の執着はどうしようもないくらい粘っこい。
陸が嫌だと言っても、もう離してあげられない。
キスをしながらベッドに押し倒された。
唇から耳、そして首筋へと滑る熱が這い回る。
「ぁ、ん……ふ、ぅ……」
舐められたところがぞわりと粟立ち、そこからじわじわと高まる熱が鼻から抜ける。
それに気分を良くした陸は、胸に付いていても仕方がないと思っていた乳首を口に含みながら内腿をするりと撫でた。
「そこ、嫌だ……」
「その顔で嫌はないだろ」
乳首を舌で押し潰され、舐られる。
自分で触ってもうんともすんとも言わなかった飾りは、陸によって変えられていく。
そこを吸われる度に痺れるような感覚が腰に重く響いた。
ここで感じていることが恥ずかしい。
止めてほしい気持ちと、もっと弄ってほしい気持ちがせめぎ合う。
軍配があがったのは、当然弄ってほしい気持ちだった。
陸の瞳に映った俺の顔は欲情を露わにしている。
それを肯定と受け取った陸は嬉々として俺の胸を貪り食った。
そうして、全身を指先で、唇で、愛撫された。
程よく筋肉の付いた肌も、髪の毛の一本一本、失敗して塞がったピアスホール、深爪した指先まで、余すことなくすべてだ。
なのに、肝心の昂りにも後孔にも触れることはない。
俺の中心は興奮して涎を垂らし、臍に水溜りを作っているというのに、だ。
やはり男だとダメなのか。
いや、勃ってはいるから男同士のやり方を知らないんだろう。
それならそれでいい。
抜き合いだけでも幸せだ。
俺は陸の上半身を撫でていた手を滑らせ、薄らと線の入る腹に指を這わせた。
そこからゆっくりと浮き出た腰骨をなぞり、そろそろと陸の昂りに近づく。
適度なボリュームの茂みを擽り、重たそうな袋を手の内に収めて柔く揉んだ。
すると、それを釣り上げている雄がひくりと動いた。
俺よりも大きなそれは、平均といわれているサイズより一回りは大きい。
赤く充血した亀頭に、張り出した傘。
竿は陸の性格を表したように真っ直ぐだ。
可愛いとは言い難いが、俺にはとても可愛いく見えた。
つぅ……と根本から鈴口まで指先でなぞれば、またピクピクと反応を返してくれる。
可愛い、もっと見たい。
「っ、あ……!」
今度は手のひら全部を使って陸を包み込んだ。
そこからトクトクと早い鼓動が伝わってくる。
優しく上下に擦れば、鈴口からくぷりと透明な愛液が溢れてきた。
嬉しくて陸の昂りを握った手を早く動かすと、ガッとその手を掴まれた。
「大地、ストップ」
余裕のない声に顔を上げれば、顔を真っ赤にした陸と目が合う。
その瞳は快楽に濡れていて、揺れるそれは湖面に写った月のように綺麗だ。
「なんで?」
「っ……そうだから」
「え?」
「すぐイきそうだから。一回出したらすぐに復活しないし、大地と繋がる前にそうなるのは嫌だ」
俺の鼓動が大きく跳ねた。
繋がるという言葉が出てくるということは、陸は男同士のセックスのやり方を知っているということだ。
「じゃあなんで触ってくれねぇんだよ。後ろの準備、してるんだけど」
「じゅ……⁉︎ え、あ……後ろは、繊細だから、さ。しっかり前戯をしてからだと思ってた」
陸の目は節穴なんだろうか。
決定的な刺激を与えられず、そこに触れてほしいと体全体で主張しているというのに、それがわからない?
こんなの、ただの意地悪だろう。
「もう十分だ」
陸の手を取り、見せつけるように人差し指と中指を揃えて咥える。
舌を絡め、軽く吸いつき、溢れた唾液で濡らす。
しゃぶりついていると、生唾を飲み込んだ陸が指を動かし始めた。
上顎を撫でたかと思えば、二本の指で柔らかい舌を上下に挟んで弄ぶ。
倒錯的な状況に腰が重く疼く。
やがて口内から出た指は照明に照らされてぬらぬらと光っていた。
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