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第2話 危険なお客様ご来店よ!

 そんな時、想定外の事態が起こったの。  いつものように唐突に現れた二人。  けれど、なんだかいつもと雰囲気がまるで違うわね? 「ラウディッてめぇ! 何しやがった⁉︎」  最初に怒鳴ったのは、群青の軍服を纏った大柄な男。  短くツンツンとした髪が、同じく群青の制帽からのぞいていて、少し濃ゆい眉と一重の三白眼を吊り上げ、通った鼻筋の下にある鼻の穴と薄い唇の隙間から怒りを吐き出している。  その両手には、それぞれ拳銃が握られているわ。 「ジャスパー! お前こそ何の魔法を使った?」  それに噛み付いたのは、真紅の軍服のような、それでいて裾が長いコートを着ている男。  ラウディより少し背が低いけれど、体格はほぼ同じ。  腰までの長い黒髪は頭頂部でひとつに纏められポニーテールに結ばれている。  細い眉と意志の強そうな勝気な二重の猫目。  僅かにぽちゃっとした鼻の下には厚めの唇が戦慄いていて、その手には一振りの刀が握られているの。  銃口と刀の切先はそれぞれ相手に向けられていて、少しでも物音がすると、それが開戦にきっかけになりそう!  嘘でしょ⁉︎  ケンカップルなんて受け入れたことないし、そもそも喧嘩どころか殺し合ってる⁉︎  やめてやめて!  アタシ争いごとも暴力も嫌いだし、血も痛いのも苦手なの!  愛を確かめるこの部屋に物騒な物を持ち込まないで!  そう思ったら、二人の手の中から得物が消えた!  どこに消えたのかというと、誰も入れない秘密の部屋。  アタシだけにしか認知できない隣室よ。  といっても、今できたばっかりなんだけどね。  どういう仕組みかわからない。  でも、ここはアタシの支配する世界。  つまり、アタシが望めば色々なことができるの。  潤滑剤やスキンを大量に置いたり、二人が望んだ大人のオモチャを出したりね。  そのおかげで、凶器を取り上げることに成功したみたい。 「俺の愛銃どこにやった!」 「俺だって知りたいね。惚けてないで答えろ」 「てめぇがやったことだろ!」 「俺じゃないジャスパーこそ、ここがどこで何がどうなっているのか説明しろ」 「だぁ~かぁ~らぁ~俺じゃねぇ!」 「他に誰がいる?」 「知るか! 早く俺の銃返せ!」 「知らん!」  二人は武器があってもなくても関係ないみたいで、それであればと拳を固く握る。  ひぃいいいいい!  武器がなければ肉弾戦に持ち込むの⁉︎  暴力反対~~!  えい!!!  アタシがない指を振ると、二人は全裸になった。  ベッドの上に、ベチョッと媚薬入りローションで全身を濡らして、ね。  二人のお尻の中は不思議な力で洗浄済みよ。  ほらだって、どっちがどっちってわからないじゃない? 「うわなんだこれ⁉︎ ︎いい加減にしろ!」 「ラウディ! いい趣味してんな!」 「全裸は俺の趣味じゃない!」 「っざけんな!」  二人はうつ伏せからどうにか起き上がると、膝立ちになり、全裸な上にローションでヌルヌルして滑るっていうのに、取っ組み合いを始めたわ。  もちろん、ローションのぬめりでまともな取っ組み合いなんてできるわけがない。  腕を掴んではつるっと滑って撫でるだけ。  膝立ちで踏み込もうとしても、ローションだらけのシーツに足を取られて相手の胸に頭突きする。  はぁ……。  なんかね、ここまで敵対していると呆れちゃう。  そう思いながら、でも、アタシはその時をじっと待つわ。  何って、媚薬が効いてくるのを、よ。  セックスしないと出られない部屋特性の、経皮吸収する媚薬ローション。  これは、肌に塗り込めば塗り込むだけ成分が速く吸収されていくのよ。  つまり、あの二人は知らないうちに、お互いに媚薬を塗りあっているっていうわけ。  ふふふっ素敵でしょ?  って、説明している間に効いてきたみたいね。  ラウディもジャスパーも、立派なモノをギンギンに勃てている。 「はっぁ……くそ、どうなってやがる⁉︎」 「ジャスパー……」 「なん……うわ⁉︎」  きゃー!!!  来たッ来たわよ!  アタシが待ち望んでいた展開!  ラウディが真っ赤な顔で息を荒げ、同じ状態のジャスパーを押し倒したの!  押し倒されたジャスパーは慌てている。  ラウディを押し除けようとするけれど、しっかりとベッドに縫い止められているわ。 「ラウディ! どけ!」 「やだね。ジャスパーだってチンコガチガチじゃん」  そう言うと、ラウディは日に焼けた長い指で、ジャスパーのナニを先端からゆぅっくりとなぞり、吊り上がった袋をやわやわと揉む。  はぁんッ……いやらしい手付き!  勃起している時に玉を触られるのが嫌な人もいるけど、ジャスパーはそうじゃないみたい。 「はっぅ……や、めろ!」  口ではやめろと言いながら、気持ちよさそうに目を細めているの。  ラウディの肩を掴んでいた手は、縋るように添えられているだけ。 「やめていいのか? 変な場所だけど、こんな時じゃないと、マジで一生ヤれないぞ?」 「そ、れは……」  突然、真剣な声色で説得し始めたラウディに、ジャスパーは切なげに眉を顰める。  んんん?  ちょっと待って。  もしやこの二人、訳アリ? 「なあ、奴隷市場にいた時のこと覚えてるか?」 「……覚えてるよ。ラウディ。お前は最初、滅茶苦茶に暴れてて鞭打ちされてばっかりだった」 「律儀に手当してくれたのは、同じ檻のジャスパーだったよな。その優しい手付きに俺は惚れたんだ」 「お前、熊みたいにしつこく口説いてきたな」 「嫌じゃなかったろ?」 「まあな」  二人の顔は、当時の幸せを思い出したように綻んでいるわ。  奴隷市場なんて過酷な環境だったでしょうに、それでも、ラウディとジャスパーは、愛という幸せを見出していたのね。  なんて素敵なの。  でもおかしいわね。  それなら、なんで二人はあんなにいがみ合い、殺し合いをしていたの? 「でも、俺たちは敵国同士になる国に、それぞれ売られてしまった」  ジャスパーは瞳を潤ませ、ラウディから顔を逸らした。  何それ、辛すぎるじゃないの。  だから二人は戦っていたのね。 「奴隷商人もよくやるよな。戦を長引かせている原因はあいつらだ」  ラウディは唇を噛み締める。  そりゃそうよ。  最愛の恋人と引き離された上に、敵同士になって殺し合いをしなきゃならないなんて。  酷いなんて言葉じゃ済まされない。  アタシなら耐え切れないわ。 「俺もラウディも奴隷部隊の将軍になり、もう三年。戦の終わりもまだ見えない」 「今ここでヤらないでどうする? どう考えてもこれで本当に最後だ。死ぬ時に後悔したくねぇだ……んッ」  ジャスパーがラウディの後頭部を掴んで引き寄せ、荒々しく唇を重ねて彼の言葉を遮った。  やだ、胸が苦しいわ。  だって、ここでエッチをしたとしても、二人は殺し合う運命から逃れられない。  どうして神様は、アタシのところに二人を連れてきたの?

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