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第05話 決して許さない
【1】
己を見下ろす目は何も映さず、果てしなく深い虚無だけが彼を覆っていた。
どこまで壊されたら人はこんな目をするのだろう、慶志郎には想像もつかなかった。
さっきの彼の話が本当なら、救いを求める彼の声も叫びも誰にも聞こえなかったのだろう。
アメリカの大学にいた頃、その容姿もあってか慶志郎自身もそういう性癖の男に誘われたのは一度や二度ではないが、元から女好きな為、誘いに乗った事はない。
今、金剛はあの時に誘いをかけて来た男と同じ目で己を見下ろしている。
何を考えているのか嫌と言うほど理解は出来た。
彼の境遇は可哀想だと思うが、だからと言って欲情を向けられるのは別問題だ。
同情で抱かれてやるほど、自分はお人好しではない。
不意に伸びて来た手が慶志郎の髪を掬い取った。
それを容赦なく叩き落とし、慶志郎はベッドから立ち上がると金剛から距離を置いた。
金持ちのボンボン育ちではあるが、慶志郎とて自衛するくらいの護身術は身に付けている。
目の前の男は危険、と慶志郎の中で警告がガンガン響いていた。
「…………へえ?」
叩き落とされた手を見詰め、金剛は目線だけを慶志郎にやると口端を上げた。
その目にゾッとする。いつか見た、猛獣のような目。
「ただの坊っちゃんかと思ったら、危機感くらいはちゃんと働くんだな」
「キミ、酔っているんだろう。悪ふざけが過ぎる」
「悪ふざけ、な。試すか?」
金剛が一歩踏み出し、間合いを一瞬で詰め腕を掴んで来た。
その動きは慶志郎の想像より速い。
掴まれた腕を振り払おうにも、がっちりと捕られてビクともしない。
そのまま、慶志郎は金剛に引き寄せられた。
「無駄に暴れんじゃねえ。痛めつけようってんじゃねェんだ」
「っ、どの口がほざく!」
空いた手で金剛の胸を突いて強引に引き剥がす事に成功する。
ここでこのまま、この男といるくらいなら今からでも出て行った方がマシだ。
「悪いがワタシは先に帰るよ。酔っ払いの相手をする義理はない」
「そうかい」
金剛が低く笑う。
「どうやって?」
「どう、って」
意味が分からず訊き返す慶志郎に金剛は呆れたような顔をすると、風呂上がりのバスローブを羽織ったままの姿を指した。
「まさかアンタが帰り支度をするのを、俺が大人しく待ってるとでも思ってんのか?呑気な野郎だな」
やっぱり坊っちゃんだなァ、と笑われさすがの慶志郎も頭に血が昇ったが、ここで突っかかれば男の思うツボだと堪えた。
取りあえずこの部屋から逃げよう。
慶志郎は金剛から目を離さずジリジリと下がり距離を取った。
ドアに手が触れノブを回そうと、ほんの1秒だけ目を逸らしたその刹那、バンッ!と太い両腕がドアを押さえ慶志郎を囲った。
驚愕して見上げた先に無表情の金剛がいて、目だけがギラギラと獰猛な光を湛えている。
あの距離を詰めて来たのか、恐ろしいまでの身体能力だ。
どうやっても逃げられないと悟った慶志郎は、全身が冷たくなるのを感じた。
全力で男に抵抗した。
抑え込もうとする金剛に蹴りを入れ、拳も何発か入ったのを覚えている。
しかし、それらはことごとく軽くいなされ、金剛は慶志郎の好きなように暴れさせた。
どんなに殴られても蹴られても、一度もやり返して来ないのが逆に不気味だった。
何故と訝しむ慶志郎に無表情のまま、金剛は一言だけ答えた。
「言ったろう、痛めつけたいワケじゃねぇって」
抵抗して暴れて息を乱す慶志郎とは逆に、最低限の動きしかしていない金剛はほとんど疲れてもいない。
まだだ、もう少し弱ってから。
己と大して変わらない体格の男が全力で抵抗してくるのだ。
力ずくで抑え込むのは骨が折れる。
捕まえた獲物が弱りきるまで、もう少し暴れさせてやろう。
金剛を突き飛ばした弾みで慶志郎の足が縺れた。
その一瞬の隙を見逃さなかった金剛が、足払いをかけてきて体勢が崩れる。
背中に当たる柔らかいベッドの感触に慶志郎はハッと見上げた。金剛がベッドに倒れ込んだ慶志郎の腰辺りに跨がってマウントを取ってきた。
90キロ近い男に全体重をかけて乗ってこられては、よほどの有段者でもない限り跳ね退けるのは難しく、身動きが取れない。
しかも足を使えないように大腿部に尻を乗せている。
彼が場慣れしているのは嘘ではなかった。
「この俺を相手にして、けっこう頑張ったなァ。係長」
エラいエラいと馬鹿にしたように頭を撫でられ、カアッと怒りが込み上げた。
「ふざけるなっ!」
闇雲に振り回した手が男の顎にヒットし、わずかに金剛の顔が逸れる。思わず怯んだ慶志郎を顔を逸らしたまま、ギロリと金剛が見下ろした。
サイドボードの小さな明かりに目だけが反射し、異様な光を放つ。
慶志郎を見下ろしたまま、ニィと金剛は嗤った。
「散々、好きにさせてやったからな。今度は俺の番だ」
「……っ、と、」
「さっきも言っただろ、痛い目に合わせるワケじゃねェ」
三度目の同じ言葉。
慶志郎に覆い被さるように身を屈め、金剛は逃れようと顔を背ける彼の首筋に手を添えて耳元に囁いた。
「俺ァ、女しか知らねえアンタと違って男も数はこなして上手いからよ。安心しな、気持ち的には地獄だろうが体はキッチリ天国見せてやるぜ」
幸い、台風が過ぎるまで時間もたっぷりあるからな。
【2】
「……ふ、っ、ぐ、う……ぅ」
薄暗い部屋のベッドの上でバスローブの腰紐で両腕を後ろにキツく括られ、タオルで猿轡を噛まされた慶志郎は胡座を掻いて座る金剛にもたれかかるようにして、後ろから抱き込まれ呻いていた。
左の肩がズキズキと痛み、熱を帯びている。
金剛に伸しかかられても慶志郎は諦めず、必死に抵抗を続けた。何とか金剛を跳ね除けようと足をバタつかせたが、ロクに動けず空しくシーツを蹴るだけに終わる。
そんな慶志郎を往生際が悪いと金剛は心底、面倒臭そうに溜息を吐いた。
「ああ、うるせぇな。大人しくしねえアンタが悪い」
一度だけだから勘弁な。
そう言って金剛は慶志郎をいとも簡単に引っ繰り返して俯せると、左の腕を取った。
「うああああーーッッ!!?」
目を見開いて慶志郎は叫んだ。
ゴキン、という音が自分の体から響いた。
何が起こったのか分からない。
凄まじい激痛と共に左の腕が動かない。
己の意思とは関係なく、涙が勝手に溢れてくる。
「おい、ジッとしろ。嵌めてやるから。暴れると腱が伸びちまう」
痛みに錯乱して叫ぶ慶志郎に構わず、金剛は再び腕を取ると外した肩の関節を嵌め込んでやった。
呼吸もままならない慶志郎を抱き起こし、宥めるように涙を拭ってやる。
「ひ、ぁァ、あ……痛、痛、い……!」
「よしよし、ゴメンな……もうしねぇから」
全身から冷や汗を流して泣く慶志郎の額に貼り付いた髪を梳いて、頭をそっと撫でる。
サラサラと手触りの良い金髪はいつまでも触れていたくなる。
また暴れられるのも困るので、金剛は仕方なく慶志郎を拘束した。
経験した事のない痛みにガクガクと痙攣している慶志郎に、金剛の声は聞こえていない。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
それだけが慶志郎の思考を埋め尽くす。
「鏡、大丈夫だ」
焦点の合わない目から、はらはらと涙を流す慶志郎にタオルを噛ませて、長い髪を掻き上げると項に舌を這わせ金剛は優しく囁いた。
「痛みなんか忘れちまうくらい、気持ち悦くしてやるよ」
宣言通り、金剛はそこから先は慶志郎に一切の痛みを与える事はせず医者の触診のように丹念に体を触り、反応した部分を執拗に弄り快楽を刻み込んでいった。
あれから二時間は経過していた。
「鏡、アンタ感度イイんだな」
ぐち、ぬち、と慶志郎の下肢から濡れた音が聞こえる。
丁寧に解した後孔は金剛の指を二本咥えていた。
散々に弄ってツンと硬くなった乳首を摘まむと、ビクンと慶志郎が背を反らす。
この時点で彼は3回達しており、勃ち上がった陰茎はダラダラと白濁を溢れさせて濡れそぼり、時おりビクビクと震えている。白い肌が紅潮し、タオル越しに荒い息を漏らして慶志郎が後ろの金剛を見た。
泣き濡れたその目が「もう止めてくれ」と訴えているが、その姿は逆に凄絶な色香を伴ってゾクゾクと興奮が全身を駆け巡った。
「……は、冗談」
首筋をぬろ、と舐めて埋め込んだ指を蠢かせ同時に陰茎を扱いた。
「まだ俺は一回もイッてねェぜ。アンタだけ気持ち悦いのは狡いだろ」
「んんんぅぅ!」
「ほらココ、さっき教えたろ。前立腺っつって、女にはねえトコな。よっぽどの不感症じゃなきゃ、大概の男はココ弄ると勃つんだよ」
ぐ、とソコを指で押して同時に陰茎の先も親指でグリグリと尿道を塞ぐように弄ってやる。
「ッ、……っ!……!」
全身を跳ねさせて達した慶志郎は4度目の吐精をしたが、最初の勢いはもうなく、金剛の手の間から半分薄くなった精液がタラタラと溢れてきた。
ぐったりと弛緩する体を抱え直し、左肩に唇を押し当てると途端に慶志郎は逃げようと藻掻き始める。
よほど関節を外された痛みが恐ろしかったのだろう。
怯えてカタカタと震える彼に金剛は『大丈夫』『もうしない』と繰り返し耳元で言い聞かせた。
痛みへの恐怖より、気持ち悦い事を覚えさせたい。
自分の手で啼かせて喘がせて、忘れられないように。
後孔に突き挿れた指を抜き差しすると、初めよりだいぶ柔らかくなったソコはヒクついてきゅうっと締めてくる。
痛みと快楽なら体はどちらを優先して受け入れるだろう?
答えは後者に決まっている。
慶志郎の体もまた、痛みから逃れる為に金剛の与える快楽を素直に受け止め、ゆっくりと三本目の指を飲み込んだ。
【3】
三本目が分かるか?
ぐち、と太い指が慶志郎のソコを押し拡げて挿入ってくる。
すでに二本の指で散々に解 されていた為か痛みはなく、何なく三本目の指を飲み込んだ事に慶志郎はショックを受けた。己の意思とは関係なく、体は男が与えてくる快楽を受け止めていく。
嫌だ、止めてくれ。
体が造り変えられていく。
いつまでも抵抗した自分が気に入らなかったのか、後ろから己を抱き込む男は何の躊躇いもなく、肩の関節を外して今まで味わった事のない激痛を体に、恐怖を心に植え付けた。
一瞬で視界が真っ白に飛び、痛みに泣き叫ぶ自分をあやすように男は慰める。
大丈夫、もう痛い事はしない。
その言葉の通り体を拘束した以外は、男は優しく慶志郎を扱った。
慶志郎が女性を優しく扱うのと同じように。
首筋、鎖骨、背中、胸、腹、脇と一つ一つ確認しながら、慶志郎が反応を示した箇所を金剛はじっくりと責め立ててくる。
今までに様々な女性と一夜の恋を重ね、色んなセックスを楽しんできた慶志郎だったが性癖はあくまでノーマルで特殊な嗜好もなく、ゆえに自分が快楽に弱い体をしていると、金剛に触れられるこの時まで知らなかった。
男でも大体、乳首は性感帯だが慶志郎は特に敏感だった。
それに気付いた金剛は容赦なく、乳首を開発しにかかった。
舐めしゃぶり、摘まみ捏ね回し、甘く噛んで弾いてそこだけで一時間以上、執拗に弄り倒した。
そのせいで乳首は赤く腫れ、少し触られるだけで慶志郎はビクビクと仰け反る。
タオルを噛まされていて逆に良かった。
なかったら慶志郎はみっともなく声を上げていただろう。
後ろに男の指が挿入り込んでいたのも気付かなかったほどだった。
陰茎はガチガチに勃ち上がり、止めどなく先走りを溢す。
タオルを噛み締め、荒く息をついていた慶志郎は不意に排泄にしか使わないソコの異物感に気付いた。
訳が分からず忙しく視線を彷徨わせると、金剛が低く嗤う。
「何だ、あんまり乳首が悦くて気付かなかったか?」
ここ、と内部がぐりんと擦られ慶志郎は腰を跳ねさせた。
一気に全身から汗が吹き出る。
「今アンタのケツに俺の指が入ってんだよ。まだ一本だけどな、三本くらい飲み込めるようにしねェと。何せ、俺のはちとデケぇもんでな」
背後から腰に熱い塊が押し付けられた。
ドクドクと脈打つソレに慶志郎はゾッとする。
今、何て言った?
指を三本?その後は?
コレを挿れるのか?
ワタシの中に?
快楽に半分蕩けかかっていた思考が覚める。
「ぐっ、ふうぅっ、あ、あっ!」
意味を理解して首を振って逃れようとした自分を、男は宥めるように抱き締めて恐怖で萎えた陰茎を緩く扱いた。
「ほら、ビビんな。大丈夫、いきなりブチ込んだりしねえって。言ったろ、痛い目に合わせたいワケじゃねぇんだよ。ちゃんと気持ち悦くしてやるから」
慶志郎の拒絶の意味を知りながら、男は涙を浮かべる目尻を舐めた。
「ちゃんと、ケツでイケるようにしてやるからな」
優しい声色で、金剛は慶志郎にとって恐ろしい事を平然と言い放つ。
慶志郎に触れる手は優しい。
怯える慶志郎に囁く声も優しい。
ただその目はずっと変わらず、暗い虚無に沈んでいた。
それから慶志郎は立て続けに三度、吐精を強制された。
その間も体中をまさぐられ、性感を拓かれ、確実に快楽を得るように前立腺の場所を教えられた。
金剛が指をソコに押し当ててくると小刻みに動かす。
その度に腰が勝手に跳ねて踊る。
いつの間にか指は二本に増えていて、内壁を解して拡げようと動き回る。四度目の吐精をする頃には、慶志郎は体力のほとんどを使い果たしていた。
それまでに金剛から逃げようと暴れていたせいもある。
さらに増えた三本の指がグチャグチャと抜き挿しされ、その度に慶志郎のソコは抜けていく指を放すまいと食い締める。
それは彼の意思とは関係ない。
体が勝手に反応しているだけだ。
慶志郎にもう抵抗する体力も気力も残っておらず、ただ与えられる快楽を享受していた。
長い時間、拘束されていた腕がようやく解放されたが、痺れて感覚もなく指一本すら動かない。
ぐったりする慶志郎の膝を後ろから男が抱え、軽々と持ち上げる。指はいつの間にか抜けていた。
「最初は正面からいいかと思ってたがよ、」
持ち上げたまま、金剛が慶志郎に言った。
「俺のはデケぇからな、挿れんのに時間かけたら痛ぇかも知んねえ。手っ取り早くいくぜ」
「………?」
金剛の言う事がまだ分からない慶志郎の、解れて弛んだソコに熱い切っ先が当たった。
みち、と太い先端が後孔を押し拡げる。
「……っ!んんぅ、うぅーっ!」
カッと目を見開いて慶志郎の体が硬直すると、金剛は萎えた陰茎を扱きながら少しずつ持ち上げた体を落としていく。
太い剛直が脈打ちながら徐々に慶志郎のナカに侵入してくる。
痛くはないが内部を割り開く衝撃は凄まじい。
「ほら、力を抜けって。痛くねえだろ」
「ひ、ぐァ、ァ、」
挿入り込んだ先端が前立腺に当たり、知らず金剛のモノを締め付ける。
ニタ、と後ろで男が嗤ったが慶志郎は気付かない。
金剛は抱えていた体を一気に落とした。
同時に噛ませていたタオルを外してやる。
ゴリゴリゴリ、と前立腺を擦られながら慶志郎のソコは勢い良く金剛のモノを根元まで飲み込んだ。
灼熱の凶器が無慈悲に慶志郎を貫く。
「あああァァァーーッッ!!」
想像以上の艶声が部屋に響いて金剛は愉悦に目を細めた。
痛みではない、快楽から来る矯声が心地好かった。
初めて男を受け入れた体は吐精はしないものの、疑似的な絶頂を得たらしく腰がビクビクと痙攣している。
慶志郎はこれで終わると思うだろうが、まだ始まりに過ぎない。
朝まで時間はある。
一晩かけてこの体に自分を刻み込んでやろう。
乾いた唇を舐めて金剛は嗤った。
【4】
後背位で真下から太い剛直に貫かれ、慶志郎は悲鳴を上げた。
ほんの一瞬、意識が飛ぶ。
ぐずぐずに蕩かされたソコが痙攣して、熱い塊を締め上げてしまう。狭い腸壁をみっちりと埋め尽くす金剛のモノは力強い鼓動を打ち、存在を主張する。
「ひッ、あ、あ、ぁ、やめ、」
「おら、まだ挿れただけだぜ」
落ちた腰を抱えられ、ずるずると埋め込まれた金剛の陰茎が抜けていく。半分ほど抜けた所で再び腰を引き落とされた。ズン、と鈍い衝撃が慶志郎を襲い、ゆっくりとまた抜かれては貫かれる。
緩い律動が繰り返される度に掠れた悲鳴が漏れた。
「か、は……っ、い、ぁ…あ……」
ずっと噛まされていたタオルに口の水分が吸われていた為、空咳が混じるのに気付いた金剛は慶志郎の飲みかけていたビールを取り、口に含むとそのまま唇を重ねて温いビールを流し込んでやった。
喉を潤す感覚が気持ち良かったのか、朦朧とした慶志郎が無意識に舌を絡めてくる。
弱々しく縋りついて来る慶志郎を金剛は『 』と感じた。
……『 』?
唇を離して金剛は頭に浮かんだ今の言葉を思い出そうとしたが、それはあっという間に霧散して消えてしまった。
ひゅーひゅーと掠れた息を漏らす慶志郎を繋がったまま仰向けに寝かせ、上から見下ろす。
サイドランプの光に照らされてシーツに散らばる金髪は、まるで黄金の海のようだ。
半分意識を飛ばした慶志郎が助けを求めるように手を宙に伸ばし、戯れに取ってやると彼は金剛の手に頬を寄せて啜り泣いた。もちろんそれは無意識の行動だったが、艶めいて扇情的なその姿にゾク、と金剛の腰が甘く痺れた。
気持ち悦い。
何だコレ、気持ち悦い。
色んな人間を抱いてきた金剛だったが、今までにセックスが気持ち悦いと感じたのは只の一度もなかった。
何故なら彼にとっての気持ち悦いは、挿れて擦って出すだけの行為に過ぎなかったからだ。
誰も金剛に満たされる行為を教えなかった。
男なのだから刺激を与えれば勃起するし、擦れば出るものは出る。金剛にとってセックスは溜まったら出すだけの行為だ。
だが今、自分の下で泣く男は違う。
鏡 慶志郎は金剛から初めて抱きたいと思わせた男だった。
金剛を受け入れたソコは柔らかく蠢き、少し揺らすだけで切なげに締めて離そうとしない。
呼吸する度にナカのモノを感じるのか、絶えず喘いでいる。
ふと、その声に混じって慶志郎が何か言っていた。
「おい?」
「……さ、ない」
身を屈めて口元に耳を寄せると慶志郎は一つの言葉を繰り返し呟いていた。
許さない、絶対。
貴様を、決して、許さない。
「……は、ふふ、ははは」
体を起こして金剛は声を上げて笑った。
こんなになってもまだ、この男のプライドはひと欠片も壊れていなかった。
生まれて初めて、金剛は心から楽しいと感じた。
それまで誰にも持たなかった執着心が芽生えた。
「大した根性だな、鏡」
もう一度、深く根元まで突き挿れて金剛は慶志郎の頬を軽く叩き、意識を覚まさせた。
「おい、起きろ、鏡」
「う、ぁ……?」
「ここ、分かるか?」
ツー、と慶志郎の腹を指でなぞると臍の少し下辺りをトントンと指した。
「ここだ、ここまで、俺のが挿入ってんだ」
金剛に言われるまま、慶志郎は視線を己の腹に向けた。
慶志郎の身体を横にして左足を持ち上げ肩に担ぐと、金剛は腰を引き陰茎を引き抜いていく。
「あっ、あ、な、何……っ」
「こっから本番だ、脳みそトバすんじゃねぇぞ」
慶志郎の体が自分に慣れるまで待ってやってただけで、金剛はまだ本気ではなかった。
そのまま勢いを付けてギリギリまで抜いた陰茎を突き挿れる。
ドズン、と下肢を襲う凄まじい衝撃に慶志郎は息も出来ない。
腹を抉られ悲鳴すら出ない。
陰茎の太いカリが抜き挿しする度に前立腺を容赦無く叩き、さっき金剛が示した所まで貫かれる。
「いあ゛あ゛ッッ!」
「根性見せろや、係長。俺ァまだイッてねえんだ」
「ひィ、嫌ッ、あっあっ、アァァッ!」
貫かれ抉られ、犯されている慶志郎の陰茎が勃ち上がっていた。
散々に嬲り弄んだ其処は確かに金剛に反応を返していた。
律動しながら金剛は慶志郎の陰茎を握って扱く。
「いや、だ、やめ、離っ……!」
「悦いんだろ、遠慮しねぇでイケよ」
「ーーっ、………ッッ!」
ビクンビクンと金剛の手の中で慶志郎は達した。
同時に金剛を飲み込むソコがきゅうきゅうと収縮し、その快感に金剛は腰を震わせた。
「……鏡」
「あ……ひ、も、イヤ……」
「悪ィな、アンタすげえ悦いから孕んじまうかもなァ」
絶頂の余韻が残る慶志郎に構わず、金剛も達するべくラストスパートをかける。担いだ足を下ろし、正面から逃げを打つ体を掻き抱いてガツガツと腰を打ち付けた。
慶志郎の絶叫が響き渡るが、それは外の激しい雨音に掻き消されてどこにも届かなかった。
明け方、金剛が慶志郎の中に二度目の射精をした頃、彼は完全に意識を失っていた。
一日目の出張はこうして終わった。
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