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第10話 何も聞きたくない
【1】
ガシャンと何かを叩き割る音、小さく上がる悲鳴、ざわめきに顔見知りと挨拶を交わしていた慶志郎は振り返り、その方向に顔が引き攣るのが分かった。
あっちは金剛がいたハズだ。
まずい、間違いなく何かあったのだ。
「ふざけやがって!」
金剛の怒鳴り声が聞こえてくる。
知り合いにはまた後日、と辞して慶志郎は急いでその場に戻った。
「轟くん、何が……」
人だかりを掻き分け騒ぎの中心にいる金剛に声をかけようとして、慶志郎はギョッとした。
さっき離れた時とはうって代わって息も荒く血走った目の金剛が件の女を睨み付け、こちらに来た慶志郎に気付くと「帰る」と踵を返して手を掴み引っ張って来る。
金剛がいた場には粉々に砕けたグラスが散らばっていて、女が怯えたような半笑いで立ち竦んでいた。
事情を訊こうにも、金剛の異様な剣幕に口を挟めない。
「轟くん、鏡くん!」
「一体、どうしたんだ」
騒ぎを聞き付けたのか自社の常務と女の父親も姿を現したが、彼らをギロリと一瞥して黙らせると、女に向かって吐き捨てた。
「この先二度と、俺の前にそのツラ見せんな」
「な、なによぅ……そんなに怒んなくたって、ヒッ」
何か言いかけた女だったが金剛の凄まじい怒気に当てられ、ヘナヘナと腰を抜かしてその場にへたり込む。
「帰る、こういう所は二度と来ねえ」
「ちょっと待って、轟!」
グイグイと腕を引っ張っられ、慶志郎は引きずられるように金剛と会場を後にした。
「一体、どうしたんだい。あれじゃ常務が」
「うるせぇ、連中なんざ関係ねえ。車出せ……くそっ」
「轟、キミ体調が悪いのか?熱があるの?」
地下駐車場に向かうエレベーターに乗り、金剛がゼイゼイと息をつく。
尋常じゃないほどの汗を掻いて呻く金剛に、慶志郎は額に手を当てようと伸ばしたが、寸前で払われる。
「今、俺に触るな。とにかく帰る」
「分かったよ……キミのマンションでいいんだね?」
「そうしてくれ」
慶志郎の車の助手席に乗ると直ぐ様エンジンが掛かり、黄色のオープンカーは公道に走り出た。
くそったれ、と金剛は内心で悪態をつく。
轟の男は体が丈夫だ。
祖父の鋼鉄も父親の剛天も病気とはほとんど無縁で、金剛も小さな頃から必要な時以外で医者に掛かった事がない。
多少の風邪も薬に頼らず治ってしまう。
つまり滅多に薬を口にする事がない。
それゆえに体は薬に耐性がない為、市販薬でも普通の人間より効き目が有り過ぎてしまうのだが、金剛は祖父や父親と比べて特に薬に弱かった。
女が自分に飲ませたのは多分、興奮剤の一種だろう。
10代の頃、自分は使わなかったがクスリで性感を高めてセックスしたがる連中の相手をした事があったので、飲まされたと分かった時にピンと来たのだ。
違法な物ではないのは分かるが、もしかしたら強めのクスリなのかも知れない。
仮に弱いクスリだったとしても、人並み以上に効き過ぎてしまうから大して強弱に意味は無い。
時間が経つにつれ体の制御が効かなくなり始めている。
考えるのを止めると途端に思考が霞む。
どれくらいの量を飲まされたのかは分からない。
色袴を穿いているから判りにくいが、陰茎は褌を押し上げてガチガチに硬くなっていた。
解消するのは簡単だ、とにかく気の済むまで抜けばいい。
夜の専門の店に行くか、デリヘルでも自宅に呼ぶか。
なけなしの理性で金剛はどうにか正気を保っていた。
不思議な事にこの時、金剛の脳裏から慶志郎の事は完全に除外されていた。何故なのか、それは彼自身にも分からない。
「着いたよ」
車の停まる振動で金剛は顔を上げた。
いつの間にか、マンションの地下駐車場に車は停まっていた。
「降りられる?」
「……大丈夫だ、アンタも帰れよ」
何とかシートベルトを外し、金剛は慶志郎を見ずに車から降りた。
全身が熱く、額から汗が流れる。
ここからマンションのエントランスに回らずとも、専用キーで地下入口から自宅に帰る事が出来る。
よろめきながら解錠して入口のドアを開くと、不意に肩を担がれた。
慶志郎が金剛を支え、一緒にマンション内に入って来たのだ。
「おいっ……!」
「そんなフラフラで大丈夫も何もないだろう。部屋は最上階?」
「テメエ、余計な真似を、」
「黙りたまえ、さっさと案内すればいい」
エレベーターを呼び、慶志郎がムッとした顔で金剛を見る。
「……一番上の端だ」
掠れた声で金剛は答えた。
心臓が破れそうなほどに速く強く鼓動を打ち、息苦しい。
視界もほとんど霞んで、脳が灼き切れそうだ。
一晩でクスリが抜けるかも怪しい。
支えられてどうにか部屋に辿り着き、指紋認証のロックを開けて二人で中に入ると閉まった扉は自動でロックされた。
自分のテリトリーに戻れた事で、もう我慢しなくていいという安堵が広がり、金剛はその場に膝をついた。
早く解放して楽になりたい。
頭の中はそれだけで一杯だ。
「轟、取り敢えず休んだ方が」
慶志郎が屈み込んで金剛を何とか立たせようとする。
服越しに触れる体、自分を覗き込む男の放つ甘いコロンの香り。
慶志郎を視界に収めた瞬間、金剛の中の諸々が崩れ落ちるのが分かった。
何度も抱いたから知っている、この男の啼き顔。
こっちの理性が残ってる間に帰れと言ったのに。
つまんねえ上司ヅラして関わったテメエが悪い。
専門なんざ呼ばなくてもここにいるじゃねぇか。
金剛は腹の底から沸き上がる欲情に身を委ねた。
轟 金剛という男は色んな人間と体の関係を持って来たが、頭の中は常に冷静で純粋な欲望のみで誰かを抱いた事は一度もない。
つまり理性を失くした事はなかった。
それは鏡 慶志郎に対しても同じだった。
無意識ではあったが、自分の中の獣のような本性を理性で抑え込んでいたのだ。
だから彼を抱く時に体を気遣う事が出来た。
けれど今はもう、欲望が理性を上回り自分ではどうする事も出来そうになかった。
「犯らせろ」
自分の中の何かが、ブチッと切れる音がしたのは覚えている。
慶志郎の肩を掴みフローリングの床に叩き付けた。
突然の事で受け身を取れず、痛みに顔を顰めた慶志郎がこちらを見上げて驚愕し、それは瞬く間に怯えの表情に変わる。
自分が今どんな顔をしているのか分からなかったが、その表情を見るにきっと、人間離れした顔をしているのかも知れない。
この後、慶志郎の身に降りかかるのは厄災、天災にも等しい地獄だ。
自分が叩き落とすのだから。
それでもいい、ただただ、この男の中に孕むくらい欲望を叩き付けて快楽を貪りたい。
金剛は慶志郎の上着に手を掛けると、下のシャツごと引き裂いた。
【2】
突然フローリングの床に叩き付けられ、後頭部を強か打って慶志郎は痛みに呻いた。
「何するんだ!」
と抗議の声を上げようとして金剛を見上げ、言葉を失くす。
ふーふーと息も荒く、血走った目で己を抑え付ける男は慶志郎の知っている轟 金剛ではなかった。
会場を出る頃から金剛の様子は異常だった。
車に乗ってからも何かをこらえるように身を固くして慶志郎に触れられるのを嫌がり、尋常じゃないほどの汗を掻いてゼイゼイと息も荒く目も虚ろで時折「くそったれ」と悪態をついていた。
轟の住居があるマンションに到着してからも、金剛は一切こっちに目を向けずによろめきながら帰ろうとする。
普段は力強く歩み、ふてぶてしい態度の彼とはあまりにもかけ離れていて慶志郎はつい、手を貸してしまった。
彼の言うようにさっさと帰って、放っとけば良かったのだと気付いた時にはすでに遅かった。
己を見下ろす目はまさに獣だった。
ようやくここで思い当たる。
砕けたグラス、女のセリフ、金剛の体の異常。
多分、酒に混じって何か飲まされたのかも知れない。
「犯らせろ」
言うが早いか金剛の手がフォーマルのジャケットに掛かり、下のドレスシャツごと勢い良く引き裂かれた。
千切れたボタンがフローリングの床にカラカラと転がるのを目端に捕らえると、ゾッと恐怖が全身を駆け抜けて慶志郎は我に返り、全力で男の下から逃れようと藻掻いた。
それが余計に金剛を煽るとも知らずに。
「と、轟ッ、離せっ!」
叫んで暴れて遠慮なく彼を殴った。
今の轟 金剛は人の皮を被った獣にしか見えない。
逃げる獲物を前にして、追わない捕食者はいない。
首を掴まれ頭を床に叩き付けられる。
目の前がチカチカして、一瞬だけボウッとする。
それでも何とか身を捻って金剛の下から這いずり出て、慶志郎は立ち上がろうとしたが後ろから容赦なく背中を蹴られて俯せに倒れ込む。
初めて犯された日のようだった。
あの日と違うのは、慶志郎の抵抗に反撃してくる事だ。
恐怖で竦んで体に力が入らない。
太い腕が慶志郎の腹を掬い、軽々と持ち上げた。
背後で熱い息と共に金剛が低く唸る。
「い、嫌だっ、止めろ離せえっ!」
「ジタバタすんじゃねぇ、つくづく学習能力のねえ野郎だ」
だだっ広い部屋に設えてあるベッドに投げ出されて逃げようとするが、すかさず後ろから金剛がのし掛かり柔らかいマットに体が沈む。
バチンと凄い音がして、腰のベルトが緩んだ。
どうやら革のベルトを引き千切られたようだ。
背中に金剛の膝が乗り、まともに呼吸が出来ないほどに押さえ付けられる。下着ごとズボンが引き抜かれ、下肢に冷たいローションが引っ掛けられて太い指がぐちゃぐちゃと後孔を探る。
衣擦れの音がして、金剛が着ていた着物を脱ぎ捨てた。
その間も無駄だと知りつつも慶志郎は嫌だと叫んで暴れる。
腰が持ち上げられ、ひたりと熱い塊が後孔に押し付けられて慶志郎の全身から血の気が引いた。
まさか、まだ慣らしてないのに。
後ろに目を向けると鬼のような形相の金剛が腰を進めてきた。
ローションの助けを借りて、ろくに解されていないソコがメリメリと割り開かれていく。
ドクドクと鼓動を打つ肉塊が情けも容赦もなく慶志郎を犯していき、凄まじい激痛が下肢を襲った。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ーーッッ」
絶叫が部屋に木霊した。
痛みが一瞬で脳から体を支配し、逃れようと暴れる自分に構わず後ろから男が律動を始める。
無理矢理に突き込まれたショックで軽い貧血が起きて、指の先まで冷たくなる。内臓が引き摺り出されるような感覚と、凄まじい痛みに呼吸もままならない。
慣らしもせず、無理やり太い剛直を受け入れさせられたソコは間違いなく裂けているだろう。
人の体は内側からの痛みに弱い。
腹の中を灼熱の塊に掻き回されて慶志郎は悶絶した。
痛い苦しい、つらい怖い。
理性の欠片もない、獣と化した金剛が恐ろしかった。
知らない、こんな男は知らない。
今にして思えば、何だかんだ言いながら金剛は慶志郎をずいぶんと気遣っていたのだと分かる。
人をおちょくって、上司を上司とも思わないような不遜な態度で生意気な部下で、平気で人を脅して犯したくせに。
それでも、ベッドでは慶志郎の嫌がる事はして来なかった。
いつも痛めつけたいワケじゃないと言っていた。
それにどんな理由があるのかは知らない。
けれどいつだって、慶志郎を抱く手は激しさの中でも優しかった。
今は違うと思い知らされる。
後ろの金剛が呻き、腰を密着させて動きを止めた。
腹の中に熱いものが放たれる。
初めて犯された日以来、中に出されて慶志郎はボロボロ泣いた。
これは悪い夢だと思いたかった。
悪夢は終わらなかった。
タガの外れた金剛は幾度となく慶志郎の中に射精した。
果てても中のモノは力を失わず、逃げる体を引きずり戻され力任せに犯される。
背中に肩に胸に噛み付かれ、血が滲む。
欲望を吐き出す道具のように扱われ、恐怖と屈辱に塗れて慶志郎は男を視界に入れたくなくて、固く目を閉じる。
意識を失くしてしまえば楽になれるのに、痛みでそれすらも許されない。
「……も、止め、…、」
「うるせえ」
懇願も聞いてもらえない。
壊れていく、砕けていく。
鏡 慶志郎という、自分を形成しているものが獣によって粉々に壊されていく。
下半身はもう感覚がなかった。
金剛が何度も自分の中に熱を放つ。
声は枯れて最早、泣く事も出来ない。
指一本も動かせない。
光が顔に当たり、慶志郎は虚ろな目で窓を見た。
外が白々と明け始めている。
ああ、夜明けか……。
意識が沈んでいく。
何も聞きたくない、見たくない。
願わくば、どうかこれが夢であるように。
眩しい光に灼かれながら、慶志郎はようやく思考を断つ事が出来た。
目覚めた後に待っているのは、また地獄とも知らずに。
【3】
明け方、慶志郎の反応がないのに気付き金剛は繋がったまま俯せていた彼の体を引っ繰り返した。
自分が噛み付いたせいで体のあちこちが傷付き、慣らしもせずに突き挿れた為に慶志郎の肛門は裂けて血が流れ、己が幾度も放った白濁と混じり合ってドロドロだった。
揺すっても閉じられた目は開く事なくされるがままで、ピクリとも動かない。
まだ彼の中にいる自分のモノは萎えずにビクビクと脈打っている。
慶志郎の片足を担ぎ上げ、金剛は再び腰を進めた。
意識がなくとも、彼の中は散々犯したというのに突き込む度に金剛のモノをほど好く締め付けてくる。
体の熱は大分冷めていたが、それでもまだ治まらない。
低く呻いて彼の中に吐き出すと、ようやく金剛は体を離した。
全裸のままバスルームに向かい、スイッチを入れて湯を溜め始めるとベッドに引き返し、汚れたシーツごと慶志郎を包 んで連れて行く。
普通、完全に意識のない人間はとにかく重くて慶志郎くらいの体格の男だと運ぶのも苦労するのだが、人並み以上に体力も腕力もある金剛には関係なかった。
脱衣場にシーツを投げ捨て、風呂場に入ると胡座を掻いて座り、対面で慶志郎を自分に跨がらせて抱えて凭れさせ、シャワーを後孔に当てて指で入口を拡げる。
そこからドプ、と血が混じった精液が溢れてきた。
どれだけ彼の中に注ぎ入れたか金剛も覚えていない。
お湯で洗い流しながら指で掻き出していく。
時折、慶志郎がビクビクと体を跳ねさせるが目覚める様子はなかった。湯を流し入れながら指で中を探ると、嬲られて爛れたそこは物欲しげにヒクつく。
シャワーを置いて慶志郎を持ち上げると、金剛は勃ち上がった陰茎をゆっくりと挿れた。
「う、ぅ……」
意識のない慶志郎が呻く。
彼の中に収めたまま、金剛は慶志郎を抱き締めて静かに目を閉じた。
肌を合わせていると別々に打っていた二人の鼓動が、リズムを揃えて打ち始める。
トクントクンと響く鼓動が気持ち良かった。
「慶志郎、俺は」
返事は返って来ない。
「慶志郎、俺は」
彼は答えない。
駄目だよ、『 』と言ったらいなくなるよ。
記憶の片隅で遠い声が聞こえる。
そうだ、言ってしまったら、もう手が届かない。
駄目だよ、言っちゃあ。
「……知ってる、言わねえ。二度と」
開いた目は暗闇に染まっている。
頭から爪先までドス黒い感情にドップリと浸かっていく。
二度と言わねえけど、コイツが逃げないようにしなきゃなあ。
くくく、と低い嗤い声が風呂場に反響して響いた。
風呂から出ると新しいシーツをベッドにおざなりに敷いて、意識のない慶志郎を転がす。
陽射しが差し込んで鬱陶しいので、ブラインドを下ろして遮ると室内はほとんど暗闇に近くなった。
引き裂いた彼の服は貴重品を抜いて躊躇いなく捨てた。
どうせここから出す気はないから、服なんてなくても構わない。
慶志郎も金剛も、パーティーに出たら一週間の有休を取り付けていた為、今日から誰にも邪魔はされない。
慶志郎の隣に滑り込み、未だ意識の戻らない体を抱き寄せる。
サラサラと流れる髪を戯れに梳いて、首筋に顔を埋め鎖骨に掛けて舌を這わせると眠ったまま慶志郎が吐息を漏らす。
金剛の体から熱は冷めていて、クスリは抜けていた。
元々、一過性の代物だから効き目も持続しないのだろう。
だが、自分で一度剥がした理性は戻りそうになかったし、戻るつもりもかかった。
彼を腕の中に収めるだけで劣情が沸いてくる。
自分の中で彼に対する執着心が止められないのが分かる。
恐怖でも痛みでも快楽でもいい、自分から逃げられないのだと心にも体にも叩き込んでやろうと思う。
一方的な蹂躙を受けた彼は痛みだけを与えられて快楽を得られず、一度も達していない。
慶志郎の陰茎を握りゆるゆると扱きながら、柔らかい乳首を捕らえて吸い付いた。
口の中で舐め転がしてやると刺激を受けて硬く主張する。
自分の手の中で慶志郎の陰茎は硬く勃ち上がり先端の鈴口を弄ってやると、トロトロと先走りが滲み出てくる。
それを掬っては竿全体に塗り込めると、眠っていても気持ち悦いのか慶志郎の腰がビクビクと跳ねた。
「あ、あ、ぁ」
強弱を付けて陰茎を扱き、射精へと導いてやるとうっすらと慶志郎が目を開けた。
「ん、あ……」
「イッちまっていいから寝とけよ」
状況を理解しないまま、腰を揺らして慶志郎は金剛の手で達した。
疲弊した体はとっくに限界を越えていて、慶志郎は再び目を閉じて眠りの底に沈んでいく。
慶志郎が放ったものを纏わせ後孔に指を這わせると、裂けたそこは血は止まっているものの入口は腫れていて触ると痛むようで慶志郎が苦痛に眉を寄せて呻いた。
体液だけでは滑りが足りないので残っていたローションを使い、指を浅く挿れて抜き差しする。
くちくちと粘着音が静かな部屋に響く。
入口が柔らかく解れたところで指を増やして深く突き挿れた。
「あっ、あぁ……」
鼻にかかった甘ったるい声に気を良くして、慶志郎の性感を探った。
何度も抱いて覚えた彼の弱い部分を責めてやると、ひんひん啼いて縋りついてくる。
指を3本咥え込めるようになったところで引き抜き、慶志郎を自分に背を向けるように転がして片足を持ち上げ、後ろから挿入した。
ゆっくりと抜き挿しすると慶志郎の腰がビクビクと震えた。
足を絡めて抱き着き、時折ゆるりと腰を揺らす。
うなじに甘く歯を立て、前に回した手で乳首を摘まんで弾いて弄ぶ。
抱き締めてじっとしていると、体温が心地好くて眠気に襲われた。
あれだけヤッたら眠くもなるわな。
とろとろと瞼が落ちていく。
慶志郎の中に突っ込んだまま、金剛は眠りに落ちた。
【4】
腹の中が暖かい。
まるで心臓が腹にもう一つ出来たように、トクントクンと脈を打ち酷く気持ちがいい。
泥沼のような眠りから意識が浮上していく。
慶志郎は見慣れない部屋に目だけを動かした。
「……、……」
声が出ない。体も動かない。
全身が強張って痛い。特に腰から下が怠くて力が入らない。
今の状況がまだ理解出来ない。そこで気付いた。
後ろから誰かに抱き着かれている事に。
頭の下に腕が差し入れられ、もう片腕が腹に回り、足が絡んでいる。
「…う、」
「……起きたかよ」
身じろぎすると低い声が耳元で聞こえた。
ああもう昼過ぎか、と眠そうに言うその声に一瞬で覚醒し、ざあっと記憶が蘇る。
昨日、自分はこの声の主に。
「と、」
中で脈を打っていたモノがズン、と突き上げてきた。
「あっ、あ、あ、っ!?」
「アンタ、寝てる時の方が体が素直だなァ」
後ろから抱き込み、金剛が腰を揺らす。
浅い部分でゆるゆると突かれ、もどかしい快感に慶志郎は喘いだ。
一体いつから、この状況なのか分からない。
ただすでに慶志郎の中は痛みを感じず、熱く蕩けきって拒む事が出来ない。
「テメエん中に」
またズンと突かれ慶志郎は短い悲鳴を上げた。
金剛の太い先端が的確に前立腺を抉り、慶志郎が意識しなくとも勝手に締め付けてしまう。
「突っ込んだまま、つい寝ちまったんだけどよ。さすがに萎えるかと思ったら、案外そうでもなかったな」
「い、挿れたままって……」
腹の中が暖かいと思ったのは、そのせいか。
気を失ってからも、この男はずっと自分を犯していたのか。
あれだけ嬲られて犯されて、それでも飽き足らずにこの男は。
「も、もう、止めてくれ……」
「聞けねえなァ」
頭の下に差し込まれていた手が慶志郎の顔を覆ったかと思うと節くれた指が二本、口の中に突っ込まれた。
「ぁが、ぐ、ぅ……う」
驚いて顔を振り吐き出そうとするが、二本の指は無遠慮に口内を探り慶志郎の舌を挟んで擽ってくる。
「あ、ふ、やっ……!」
何とか押し出せないかと指に舌を当てるが、ぬろぬろと舐めてしまうだけでどうにも出来ない。
後ろで金剛が愉しげに嗤った。
「何だ、ずいぶんとおしゃぶりが上手いんだな」
掻き回す指が不意に慶志郎の口内で抜き差しを始め、溢れた唾液が口端から零れる。
藻掻く慶志郎に「後で俺のもしゃぶってくれよ」と後ろの男が嗤う。
ほら、こんな風に。
指を陰茎に見立て、口の中まで嬲られる。
散々に泣いて涸れたと思った涙が目尻に浮かんだ。
慶志郎の痴態に煽られたか、緩やかだった抽挿が段々と速くなる。
金剛の呼吸がはっはっ、と短くなる。
口の中から指が出て行き、固く主張する乳首を摘まんで押し潰す。
濡れた指で弄られ、その刺激が悦くて慶志郎は掠れた声を漏らした。
嫌だと思うのに、体が心を裏切る。
いつもと違う体勢で犯されて、太いモノがいつもと違う角度で気持ちよくてたまらないところを突いてくる。
金剛がおもむろに体を起こし、慶志郎を俯せて腰を上げさせずに突いてきた。
熱い剛直が抉るように奥まで入り込む。
「あっ、あぁっ、深、い……!」
突かれる度にマットに押し付けられた慶志郎の陰茎がシーツの布地で擦られ、深い快楽に恐ろしくなって無意識に逃げを打つ。
それ以上されたら、自分がどうなるのか分からなかった。
逃げる体を引き戻され、最後とばかりに腰の動きが速まる。
乱れたシーツを掻き抱いて、慶志郎はただただ啼いた。
男が呻いて、いつもよりもっと奥の深い処で熱を吐き出した。
それに引き摺られるように、全身を震わせて慶志郎も絶頂に達した。
「……へえ、やっとケツだけでイケたな」
荒い息を吐きながら、絶頂の余韻でビクビクと震える慶志郎の背中を撫でて、金剛は満足げに嗤った。
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