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第12話 思い出せない
【1】
ベッドで青白い顔で眠る鏡 慶志郎を、轟 金剛はずっと見つめていた。
ここに来てからロクに食事も摂らずに金剛に抱かれ嬲られていた慶志郎は、あれから半分錯乱状態で興奮して泣いて金剛を罵り、軽い脱水症状と貧血を起こして極度の疲労も相まって気絶するように眠ってしまった。
欲望に任せて慶志郎を追いつめた自覚はある。
手を離すのなら今しかないのも分かっている。
それでも、この手を離すという選択肢はない。
サラサラと流れるような金髪を掬い取っては落とし、泣いて腫れ上がった目元を指でなぞった。
彼と体格差はあまりないが、厳つい顔の自分とは違い慶志郎の方がシャープな顔つきで造りも整っていて綺麗だと思う。
慶志郎の手を取るとひんやりと冷たかった。
己の手で包み込んでぬろ、と舌を這わせる。
彼が起きたらメシを食わせなきゃなあ、と指を食みながらボンヤリと考えた。
自分でも正直、どうしてここまで慶志郎に固執するのか分からない。
ただ、自分の中の何かが慶志郎でなくては駄目だと訴える。
だからこそ、消えるだなんて言うのは許せない。
自分の視界から外れるのは許さない。
二度とあんな事を言わないように、もっと快楽を刻み込んで、自分を刻み込んで、覚え込ませて、堕としてしまえばいい。
慶志郎の左手の薬指の根元に少しだけ、強く歯を立てると赤い歯形が付く。
「……慶志郎、俺は」
ザーザーと頭にノイズが流れ、次の言葉が出て来ない。
「……ああ、言わねえ」
誰に向けるでもなく、金剛は呟いた。
駄目だよ。
「知ってる」
思考が灰色の世界に浸食されていく。
言っちゃ駄目だよ。
「分かってる」
その言葉は、言わない。
言ってはならない。
金剛から表情が消える。
約束、した。
「ああ、約束だもんな」
誰と?
誰と交わした約束だったろう。
思い出せない。
--ごめんね、許してね。
ごめんねと、何度も何度も言った人は誰だったろう。
思い出せない。
それを言っちゃ駄目だよと言った人は誰だったろう。
思い出せない。
「慶志郎、俺は」
その先が言えない。
彼の笑った顔が見たいと思った。
やあ、お久しぶり。
今は親御さんの病院にお勤めだっけ?
臨床心理の資格も取ったんだってね。
そうそう、ちょっと前に彼が来たよ。
うん、そう、君がずっと気にしていた彼。
数年振りに会ったけど、違う意味でマズいねえ。
いや、いい男にはなっていたけれど、フェロモン垂れ流し過ぎでしょう、あれは。
この界隈がちょっと騒ぎ出してるよ。
彼の昔なじみなんて、数え切れないくらいいたじゃない。
面倒事にならなければいいけど。
今は誰かと一緒にいるみたい。
いや、いるんじゃなくて、捕まえちゃったかなあ。
まあ、表沙汰になったらマズいかも知れないねえ。
うーん、合意ではないっぽいよ。多分ね、勘だけど。
ずっと調べていたんでしょ、彼がああなっちゃった原因を。
あはは、余計な知識とは酷いなあ。
間違ったままで何かあったら、そっちの方が困るじゃない。
ボクが出会った時にはもう、引き戻せなかったよ。
へえ、金髪の人ねえ。
そこまで分かってるなら大丈夫じゃない?
今でも情報網は生きてるんでしょ。
はいはい、他ならぬ君の頼みだから何でも聞きますよ。
ホントはボクもね、ずっと気になっていたから。
じゃあ、何かあったら連絡するよ。
「またね、マチ子ちゃん」
そもそも轟 金剛に関して皆、最初から大きな勘違いをしていたのだが、本人も含め誰もそれに気付かなかったのだ。
【2】
ガチャン、とドアの閉まる音で慶志郎は目を覚ました。
いつの間に眠ってしまったのか覚えていない。
まだ頭がボンヤリとする。
ブラインドが降りている為に室内は暗く、今が夜なのか昼なのか分からなかった。
明かりが点いて急に眩しくなり、とっさに目を閉じるとガサガサとビニールの擦れる音と歩く気配がした。
数秒してキッチンから水を流す音と、食器の触れ合う音が聞こえてくる。
何かを煮る音、焼く音に続き、ふわりといい香りが漂って来て慶志郎は空腹を覚えて身動 ぎした。
「起きたか」
低い声が頭上から聞こえてビク、と身体が震えた。
素肌にパーカーとジーンズを穿いた金剛がベッドの側に立って、こちらを見下ろしている。
「腹が減ったろ、メシを食え」
思考が完全に覚醒しないまま、伸ばされた手を反射的に掴むと被っていたブランケットごと抱き起こされ、そのままダイニングテーブルに連れて行かれる。
壁の時計は7時過ぎを指しており、ブラインドの隙間から見えた外の気配に夜だと分かる。
テーブルに着いた慶志郎の前に、くつくつと湯気を立てる卵粥の入った一人用の小さな土鍋、取り分ける茶碗とレンゲに木製のスプーンが置かれた。
「味の濃いモンや油モンは急に食うと胃に悪いからな、粥からだ。ゆっくり冷まして食え」
そう言って向かい側に座る金剛の席には、デカい茶碗に盛った白飯、味噌汁、出汁巻き卵と焼鮭に漬け物。
いただきます、と手を合わせて金剛が食べ始めた。
豪快に飯を食べるが、作法は綺麗で彼がきちんと躾られて育ったのが分かる
スプーンを取り、卵粥を掬って口に入れると米の甘さを引き立てる丁度いい塩味にホッと息をついた。
空腹だった胃と疲れた体に優しい味が染み渡り、慶志郎は黙々と粥を食べた。
睡眠を取り、昨日の取り乱した自分を思い出して恥じながら幾分か冷静になった頭で考えた。
轟 金剛は自分を一体、どうしたいのだろう。
何があっても手離さない、と言ったその意味。
そうだ、意味だ。
彼は自分の放った言葉の意味を理解しているのか。
慶志郎、俺は。
眠っている時に何度か、自分の名を呼ぶ声が聞こえていたような気がする。
慶志郎、俺は--その先に、何を言いたいのだろう。
「おい」
呼び掛けられて慶志郎はハッと我に返った。
食べる手が止まっていて、傍らに金剛が立って見下ろしている。
彼は先に食べ終えたようで、食器は下げられていた。
「どうした、味が悪かったか」
「……いや、美味しいよ」
ただもう、お腹一杯でと答えると金剛は頷いて三分の一ほど残った粥の土鍋やその他をさっさと下げた。
キッチンのシンクで食器を洗う金剛を手持ち無沙汰に眺める。
彼が料理が出来るとは意外だった。
会社での不器用な仕事振りを見る限り、一人暮らしに有りがちなコンビニ弁当生活なのかと思っていた。
シンク周りを片付けて、冷蔵庫からスポーツドリンクのペットボトルを持って戻って来た金剛が差し出す。
「飲んでろ、水分が足りてねぇ」
素直にボトルを受け取る自分に金剛が安堵したように見えた。
受け取ると同時にふっと身体が宙に浮く。
金剛が己を抱き抱えてソファに腰を下ろした。
どうしてこうも、この男は自分を軽々と抱き上げるのだろう。
カチカチと壁の時計が時を刻む音が静かな室内にやけに響く。
「……轟」
「悪ぃが、帰さねえ」
慶志郎の先を越して後ろから抱き締めたまま、金剛が言った。
「キミ、自分のやっている事が分かってるの」
「当然」
「監禁だよ」
「知ってる」
する、と肩から被っていたブランケットが引き下ろされて腰まで露にされた。
パーカーを脱いだ金剛がピタリと抱き着いて肌が合わさり、心臓の鼓動が伝わってくる。
「どうしてワタシなんだ」
「分かんねえ」
「ゲイ、じゃないんだよね?」
「当たり前だ、男なんざゴメンだ」
「ワタシも男だよ」
「アンタは慶志郎だろ」
まるで禅問答のようだ。
「訳が分からな、あっ」
ぬる、と首筋に舌が這わされた。
胴に回っていた腕が動いて、胸を撫で回してくる。
「や、め」
触れられただけで体の芯が熱を持つ。
金剛から逃れようと身を捩るが、がっしりした腕は容易に外れず逃げる事は敵わない。
「……アンタ、」
鎖骨に唇を押し当て、キツく吸って金剛が言った。
「アンタの体、すっかり俺の手を覚えたなァ」
その言葉に驚愕して金剛を凝視すると、彼は口元に笑みを浮かべ慶志郎を向かい合わせに抱き直し、胸元に顔を埋めて白い肌に吸い付き紅い痕を幾つか残す。
「と、」
「俺が触ると気持ち悦いだろ」
顔を上げて笑う金剛に慶志郎は困惑した。
いつもの人を食ったような、小馬鹿にしたような笑みでなく、普通に楽しそうに笑う彼に--多分、これが本来の轟 金剛という男なのではないか、と慶志郎は確信のようなものを感じた。
「鏡」
呼ばれて目を合わせると、大きな暖かい手が頬を撫でる。
どうして拒まなかったのか、自分でも分からない。
肉厚の唇が慶志郎の唇に重なる。
そこで初めて気付く。
もう数え切れない程に金剛と身体を繋げてきたが、意識を持ってキスをしたのはこれが初めてだったと。
金剛とのキスはただ重ねるだけの、こっちが恥ずかしくなるような優しいものだった。
「慶志郎、俺は」
唇を離して金剛が目を伏せる。
その先の言葉を待つが、いくら待っても紡がれる事はなかった。
金剛が次に視線を合わせた時、もう先ほどのような笑みは消えていて、あの冷たい何も映さない虚無が瞳を覆っていた。
「轟」
直感的に駄目だ、と思った。
今、彼から逸らしては駄目なのだと。
だが先に逸らしたのは金剛だった。
「今日はしねぇから、もう少し休め」
小さなダウンライトのみを点けた薄暗い室内で、慶志郎を抱き込み金剛は眠りに就く。
慶志郎、俺は。
その先に何が言いたい?
とにもかくにも、やはりここから出なければ。
金剛が深い眠りに就くのを慶志郎はじっと待った。
人の気配を読むのに長けている金剛に悟られずに出て行くのは至難の技だ。
一定のリズムで深い寝息が聞こえてくると、そっと慶志郎は金剛の腕から逃れる。
取り上げられた車のキーやスマホを探す余裕は無い。
服も無いから仕方なく、金剛が脱ぎ捨てたパーカーとジーンズを素肌のまま着込み、気配を殺しながら慎重に玄関へと向かう。
幸いにも靴は捨てられておらず、それを手に持って静かにドアのロックを外して開けた。
ギリギリ通れるくらいに開けて素早く出る。
兎に角、外に出て連絡を取れる所を探そう。
一瞬だけ振り返り、ごめんと呟くとドアを閉めた。
自動でロックがかかる音を聞きながら、慶志郎は帰る為に出て行った。
金剛が目を覚ましたのは、約10分後だった。
【3】
パーカーにジーンズ、革靴とちぐはぐな格好で慶志郎は走り続け、深夜の繁華街に着いた。
携帯電話の普及で街から公衆電話という物が激減し、スマホがないとろくに連絡すら取れない時代になったのが逆に不便だ。
どこかコンビニ辺りに入って電話を借りようと焦るあまり、慶志郎は3人連れの若い男達にぶつかってしまった。
「ってーな!」
「あ、すまない。急いでいたから、申し訳ない」
「ちょっと待ちなよ、お兄ちゃん」
立ち去ろうとする慶志郎の腕を1人が掴み、取り囲んでくる。
「ごめんで済むならケーサツいらねーっての」
「……悪いが、今は持ち合わせがない」
犯罪率の高いアメリカに住んでいた経験から、この手の言いがかりをつける相手には下手に逆らわない方がいいという事を慶志郎は知っていた。
金を持っているなら素直に渡し、命の保障だけは確保する。
しかし本当に今は何も持っていない。
どうにか隙を突いて逃げるしかなさそうだ、と目まぐるしく考えを働かせる慶志郎のパーカーから覗く肌に気付いた男達が互いに目配せをしたが、慶志郎はそれに気づかない。
腕を掴んだ男が不意に馴れ馴れしく肩を組んで来た。
「まあ、別に金はいいからよ。ちょっと付き合ってよ」
「いや、ワタシは急いでいるかっ、」
別の1人が至近距離で腹に拳をめり込ませた。
いきなりの事にたまらず呻き腹を抱える慶志郎に「お兄さん、気分悪いのー?」「どうしたの、大丈夫?」とわざとらしく嘯いて男達が暗い路地の方へと誘導する。
夜の繁華街で慶志郎達を気にかける者は誰もいなかった。
身の危険を感じ、このままではマズいと何とか逃げようとするが3人の男の力に敵うはずもない。
叫ぼうとした口は後ろから塞がれ、もがく腕を取られる。
街の明かりがどんどん遠ざかり、慶志郎は暗闇の中に引き摺り込まれた。
助けを求める声は雑踏に掻き消されて届かなかった。
腕の中の重みが消え、夢うつつで室内に自分以外の気配がない事に気づいた金剛は目を開けると勢い良く起き上がった。
最初はトイレにでも行ったのかと思った。
「鏡っ!」
部屋の明かりを灯すと自分が脱ぎ捨てたパーカーとジーンズがなく、反射的に玄関に目をやると彼の革靴もなかった。
ここから出て行ったのか?
室内は何かを探した形跡もない。
念の為、壁に埋め込まれている隠し金庫も確認したが、慶志郎の持ち物はちゃんとあった。
つまり慶志郎は着の身着のままで、金も何も持たずにここから出たのだ。
「……っ、あのバカ野郎が……!」
プライドの高いあの男が、無防備な格好で外に出るとは予想していなかった。
完全に自分の油断だ。
クローゼットを開けてブラックジーンズに足を通し、膝丈までのレザーコートを羽織ってスマホを取ると金剛はマンションを飛び出した。
ちなみにクローゼットの中に揃えてある金剛の着替えは、社長秘書の霧島 エリカが見立てた物である。
素肌にレザーコートを羽織った厳つい大男が必死の形相で街を走ると一般人はサーッと道を開ける。
明らかにその筋の人と間違われているが、邪魔が入らないのでかえってよかった。
慶志郎がいつ出て行ったのか分からないが、徒歩でならそんなに遠くには行けないだろう。
ましてや無一文で連絡手段も持たない。
どこかで電話を借りた可能性が高い。
目に付いたコンビニや店に片端から飛び込み、金髪の男が来なかったか尋ねるが答えはNOだった。
「くそ、どこに……」
困った事があれば、いつでもおいで。
あの店長の言葉が不意に浮かぶ。
夜の街で商売をしている彼なら、何か分かるだろうか。
そう言えば昔、彼はこの界隈では顔が利くのだと言ってなかったか。ただ闇雲に探して時間をムダにするより、頼れるものなら頼ろうと金剛は再び走り出した。
「やあ、いらっしゃい……どうしたの、そんなに慌てて」
バンッと店のドアが乱暴に開いて、息急き切って飛び込んで来た金剛に店長は少し驚いて声をかけた。
「……っ、長い金髪の見た目の良い、身長 は俺とあんまり変わんねえ男を探してる、誰か見てねぇか分かるかっ……?」
「それはどれくらい前?」
「……1時間か、そこら」
「OK、待ってて」
スマホを取り出してダイヤルしながら訊く店長に、顔を歪めて金剛は答えた。
「--やあ、ボクだけど。ちょっと急ぎで人探しをしてるんだ。うん、長い金髪で長身の男の人、20代半ばの結構なイケメン。見た子がいたら全員にこっちに連絡させるように頼んでくれる?ラインの方がいいかな。うん、お願いね」
電話を切ると店長は金剛に「3分待って」と微笑む。
すぐにスマホがラインの着信を知らせ始めた。
画面を見詰める店長が段々と眉を潜める。
「今から30分くらい前に君の言う特徴の男性が、数人の男と一緒に居るのを見たって子がいたよ。いたというより、連れて行かれた感じ」
「どこに行った!?」
「ここから多分……うん、今は使われてない廃倉庫のある通りの辺りかな。轟くんっ!」
それだけ聞くと呼び止める間もなく金剛が飛び出して行く。
店長はもう一度ダイヤルした。
「ごめん、ちょっと喧嘩慣れしてる子を2~3人集めて?そう、廃倉庫通りまで。ボクも行くから」
簡単に身支度して店長はバイト君に留守番を頼むと店を出た。
金剛が人を殺す前に間に合えばいいと願いながら。
【4】
埃が舞う扉の壊れた、だだっ広い倉庫にくぐもった泣き声と笑い声が反響する。
「お兄さん、髪キレイだねー」
「泣いちゃってカワイー」
電球の切れかかった外灯がチカチカと点滅しながら、倉庫を照らす。
「ぐ、うっ、…ぅ、」
「あー、オニーサンの口チョー気持ちいい」
仰向けに転がされ、猛った陰茎を口に突っ込まれて慶志郎は気持ち悪さとおぞましさにボロボロ泣いていた。
噛んだら歯を全部へし折ると脅され、従うしかなかった。
頭は無理やり押さえ付けられている為に逃げる事も出来ず、ぐぼぐぼと陰茎が口の中を出入りする。
もう1人は慶志郎の乳首を舐め回し、片方を指で摘まんで引っ張り玩ぶ。別の1人は慶志郎の髪を陰茎に巻き付けて扱いていた。
口に突っ込んでいる男の腰の動きが速まり、呻いて喉の奥で射精する。
青臭いドロリとした精液が流れ込み、吐き出したくても男は飲み込むまで陰茎を抜かない。
慶志郎の髪を使って陰茎を扱いていた男も達して、髪から顔に精液が飛んで来る。
飲み込んだ精液が胃に流れていく感触に慶志郎は嘔吐 いた。
「さっき見えたからそうかなって思ったけど、これキスマークでしょ。カノジョにでも付けて貰ったの?」
パーカーを剥ぎ取り指で胸元を突 く男の言葉に、ギクリと強張る慶志郎に男達がニヤニヤと笑う。
「ガタイいいけど、お兄さんイケメンだもんねー」
ジーンズを引き下ろした男が下着を履いていない下肢を見て「やらしいー」と笑いながら、足を持ち上げ唾液で濡らした指を後孔に挿れてくる。
嫌だと逃げを打つ腰を掴まれ、ズブズブと指が入る。
中で指を回した男が何かに気づいたように、慶志郎を覗き込んできた。
「オニーサンさ、ココに挿れるの初めてじゃないよね?」
「マジ?」
「狭くてキツイけど、挿れられんの慣れてるよコレ」
「カノジョじゃなくてカレシ持ち?」
他の2人も次々と指を差し挿れてきて、それぞれが中をグチャグチャと掻き回す。
3本の指がバラバラに動き、拡げられる感覚と圧迫感に慶志郎は仰け反って悲鳴を上げた。
グリ、と前立腺を押され腰が跳ねる。
金剛によって慣らされた体は素直に快感を拾うが、慶志郎の陰茎は何故か反応しなかった。
両足の膝裏に手がかかりグッと押し広げられて硬いモノが後孔に当たる。
全身に鳥肌が立ち、慶志郎は力の限り暴れたが再び口に陰茎を咥えさせられ抵抗を奪われた。
熱いモノが体の中に入って来る。
すぐに激しい律動が始まり、バチバチと腰がぶつかる音が響く。男はすぐに達して中に射精し、腹の中に熱いものが注ぎ込まれる感触がおぞましかった。
最初の男が離れると次の男が同じように伸しかかってくる。
順番を待つ男が電話で何か話しているのが見えた。
何もかも違う。
金剛に抱かれるのとは違う。
3人目の男は慶志郎を後ろから貫いてきた。
腕と髪を後ろに引っ張り仰け反らせてガツガツと腰を打ちつけてくる。3人の男が2巡した頃に、ガヤガヤと複数の男達の声が聞こえてきた。
「もうヤッてんの?」
「お、ホントにキレイなお兄さんじゃん」
5~6人の新しい男達が犯される慶志郎を品定めするように覗き込んでくる。
男の1人がどこかに電話をしていたのを思い出した。
あれは仲間を呼んでいた?
まさか、とゾッとする慶志郎を絶望に叩き落とす声が届く。
「オニーサン体力ありそうだし慣れてそうだし、この人数でもヨユーでしょ?」
新しい手が慶志郎に伸びてくる。
死ぬより辛い事があるなんて、思いもしなかった。
金剛に犯された時に地獄だと思ったが、本当の地獄はそんなものではなかった。
男達が何回、自分の中に突っ込んだのか分からない。
中に出された精液を掻き出してやるよと、寝転ぶ男の上に股がらされて下から突き上げられた。
ぬろぬろと慶志郎の咥内を男の舌が舐め回し、唾液を飲み込まされる。
顔から胸に精液が引っ掛けられる。
知らない手が体中を這い回る。
血が滲む程に乳首に歯を立てられ、噛み痕が幾つも刻まれる。
金剛が付けた痕はもう残っていない。
『アンタの体』
金剛の声が聞こえる。
『すっかり俺の手を覚えたなァ』
彼に触られるのは嫌ではなかった。
あの手が触れると体が熱くなって、さざ波のように快感が走った。気持ち悦いと認めるのが怖くて悪態ばかりついていた。
知らない男達の手は、ただただ気持ちが悪かった。
自分で思うほど、金剛の事は嫌いでなかったのかも知れない。
激しかったけど、あの手はいつも自分を労ってくれて優しかった。
涙も涸れ果て、ただガクガクと揺さぶられながら慶志郎は金剛に会いたいと思った。
寝る前に交わした金剛の唇の感触が思い出せない。
だからもう一度、あの優しいキスがしたかった。
そこに着いた時、複数の男達の間から白い足が飛び出ているのが見えた。1人の男が腰を動かす度に、抱えられ宙に浮いた足がビクビクと痙攣している。
笑い声と掠れた泣き声と隙間から見えた金髪に、金剛は一瞬でキレた。
コイツら全員殺す。
1人たりとも生かして帰さねえ。
走り様に飛んで1人の男を蹴り飛ばす。
硬い樫の木で作られた金剛の下駄は凶器にも等しい。
不意討ちを喰らい蹴られた男は真横に飛んで転がって行った。
突然現れた金剛に、男達が慶志郎から離れ狼狽える。
「なっ、何だよアンタ、ぎゃっ」
声を上げた1人の男の顎を下から蹴り上げると、男は身体を縦に2回転させて地面に叩き付けられ、動かなくなった。
顎の骨が砕ける感触が足に伝わる。
ものの数秒で起きた事態と、鬼のような形相の金剛に男達がざわめくが凄まじい怒りを宿すその姿に気圧され動けずにいた。
「……テメエら動いたら殺す、動かなくても殺す」
男の1人が「ヤクザもんだ」と呟き、それに呼応して男達が慶志郎と金剛を交互に見ながら「やばい」「もしかしてヤクザの愛人?」などとヒソヒソ小声で交わし、動揺が広がっていく。
そう思うなら思わせておけばいい。
「人のモンを散々にしてくれて、生きて帰れると思うな」
地獄の底から響くような声で死刑宣告を放ち、言うが早いか金剛の拳と足が男達を一発で沈めていく。
逃げる男を引っ掴み、壁に叩きつける。
体のどこかが砕ける音が響き、壁にベットリと血の跡を残しながらズルズルと男は滑り落ちた。
下半身を丸出しにしていた男の股間を蹴り上げ、陰茎と玉を潰した。そのデカい図体から想像もつかないほど、金剛の動きは俊敏で正確に人間の急所のみを狙い、宣言通り誰1人とも逃がさなかった。
土下座して「すみませんすみません」と謝る男の頭を踏み付けると、顔面の骨が折れる感触が伝わってきた。
5分もかからず、そこにいた男達は地面に倒れ伏し、呻き声を上げて血溜まりの中に転がっていた。
「…………慶志郎」
意識もなく、ぐったりと横たわる慶志郎を金剛は抱き起こした。ズタボロに犯されて全身が精液に塗れ、噛み痕の付いた体が痛々しかった。
「間に合わなくて、ごめんな」
羽織っていたコートで慶志郎を包むと金剛は立ち上がった。
「帰ろうな、慶志郎」
「轟くん」
いつの間にか店長が来ていた。
「ボクの連れが送って行くから早く行きなさい。口は固いから安心していいよ」
後の始末は任せてね、と穏やかに笑う店長の言葉に甘えて金剛は世話になる事にした。
早くこんな所から慶志郎を連れ出してやりたかった。
家に帰ろう。
帰って彼の体を綺麗に洗って、傷の手当てをして、彼を抱き締めて眠ろう。
これ以上、彼を傷付けないように。
「彼、鏡の企業の人だね」
一目で慶志郎の素性を当てられ、驚く金剛に店長は「ふふ」と笑う。
「こういう商売してるからね、色んな人を知ってるだけだよ」
「轟さん、自分が送ります」
如何にもなヤンキースタイルの男が金剛と慶志郎を車に乗せてくれた。
「またね、轟くん」
彼らを見送った後、店長の顔から優しい笑みが消えた。
「さぁて、君達はどうしてくれようかな……轟くんはボクのお気に入りなんだけど、彼を傷つけた償いはキッチリして貰わないとねえ……」
金剛には見せた事のない、冷酷な笑みを湛えて店長はスマホを取り出した。
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