12 / 34
12 休日
ホストクラブ『ブラックバード』にも、定休日というものはある。月曜日がそれだ。日曜の営業が終わると、そのまま休みになる。ちなみに殆どのホストは、この他に週一回程度の休日がある。
つまり月曜日の今日は、休みということになるが――。
「アキラ」
眠っていたのをたたき起こされ、俺は顔をしかめた。ベッドによじ登って俺の顔を覗き込む北斗に、軽く殺意がわいてくる。
「……おい」
朝っぱらから何だ。というか何時だ。まだ九時じゃないか。
布団をひっぱり頭から被って睡眠を延長しようとする俺と、布団を引き剥がして起こそうとする北斗。
「やめろ北斗っ……! 俺はまだ眠るんだからっ……」
「腹減った。何か作って」
「馬鹿かテメェはっ……」
知らん。そう思って布団を被り、北斗を無視する。やっぱり、合鍵を取り上げないとダメかも知れない。
諦めたのか静かだった北斗が、急にゴソゴソと何かやり始めた。布団の下のほうから潜り込んできた北斗に、驚いてビクッと震える。
北斗はそのまま俺のスエットのズボンを下着ごと引きずり下ろし、戸惑う間もなく、性器をぱくんと咥えてしまった。
「んっちょっ……!」
生暖かい感触が、性器を這う。ゾクリと皮膚を粟立て、慌てて布団を取り払った。
「北斗っ……!」
「ん」
ちゅう、先端を強く吸われ、ビクッと膝が震えた。脚の間に顔を埋め、北斗が俺のを咥えてる。
「こらっ、おま……っ、んっ……♥」
ぬらぬらと舌が性器を這う。手で睾丸を弄くられ、竿を丹念に舐める。舌先が先端の穴を擽る。
「あっ、ん……、ほく、とっ……♥」
このままでは、北斗にイかされる。髪を掴んで退かそうとするが、北斗は舌先を硬く尖らせ、捩じ込むように先端をグリグリと弄ってくる。刺激に溜まらず脚をばたつかせ、腰を捻る。
「んぁ、い、んっ……、ヤメっ…」
「なんで。もうガチガチじゃん」
「っ、ん♥ あ、あっ……、腹、減ったんだろっ……。チャーハン、作るっ……から! 起きるからっ!」
「その前に、アキラの飲む」
「っっ……!!」
とんでもない宣言に、甘く腰が疼いた。
熱い口内が、気持ちいい。ぬらぬらと唾液を絡ませ、舌がさわさわと這っていく。強く、弱く緩急をつけられ、堪らず脚をバタつかせた。
「あっ、あ、あ……、北斗っ……! も、出るっ……んっ♥」
ビクビクと身体を震わせ、耐えきれず精液を吐き出す。北斗がいっそう奥まで咥え込み、粘液を呑み込む。
俺は息を切らしながら、北斗の喉が動くのを見つめた。
(あ、クソ……っ、イかされた……)
七つも年下のイケメンに、口でイかされる背徳感が、ざわざわと胸をざわつかせる。
「はぁっ……、はぁ、はぁっ……」
息を切らせていると、北斗がキスをしてくる。イったばかりのせいで、舌を擽られると腰に甘い疼きがわいた。
「目、覚めた? アキラ」
「とっくに覚めてるわ……。ったく……」
のそりと起き上がり、半端に脱がされた下着とズボンを直す。北斗は心底楽しそうにしながら、それを眺めていた。
「足りないなら、一発ヤっとく?」
「やらないし、お前一発で済まないだろ。ヤだよ」
「僕イってないのに」
背後から抱き締められ、首筋にキスされる。ぞく、と身体が震えたが、素っ気ないフリをした。
「邪魔だ。飯食うんだろ」
「うん」
「ったく……」
ブツブツ文句を言いながら、冷蔵庫を開ける。朝から起こされて、イタズラされたあげく、飯まで作ってやるなんて。俺ってばなんて優しいんだろうな。
(流される自分に、腹が立つわ)
ハァとため息を吐いて、俺はネギを刻むのだった。
◆ ◆ ◆
ハムスターみたいに口一杯にチャーハンを頬張る姿を見ると、夜の面影などまるでないな、と思う。ホストというより、普通の大学生みたいだ。
「お前、もっとゆっくり食えよ」
「ん。んも、んむん、む」
「いや、なに言ってるか全然解んないし」
「今日の予定は?」
チャーハンを飲み込んで、北斗がそう切り出した。一週間ぶりの休みである。そう思うと、早く起きたのも悪くないかもしれない。夕方に起きたときのがっかり感といったら、ないもんな。
「まあ、クリーニングは出さないと。あと洗濯しかけて掃除機かけて、布団干して……」
やることなんて、溜まった家の雑事しかないのだが。遊びに行くような友人も居ないし、恋人はしばらく居ない。
「クリーニング僕も出すから、アキラのも持ってくよ」
「お、マジ? じゃあ頼むわ」
「で、掃除終わったら飯食い行こ」
「飯~? 良いけどさ、お前、毎週毎週……。他のヤツとも交流しろよ」
「アキラに言われたくないし」
「ぐ」
痛いところを突かれ、唇を曲げる。下の面倒を見るため、たまに誘うこともあるが、基本的には上司と部下って感じの付き合いだ。ここ何年も、友達みたいなものは居ない。何しろ、年代的なギャップもある。
同業じゃないヤツは時間帯が合わないし。
(結局、北斗とつるんでんだよなぁ……)
とはいえ、北斗が居なくなったら、本格的に待っているのは孤独だ。そうなったらどうなるのか、自分でも想像がつかない。
この、図々しく家に上がり込む男が居なくなったら、何だかんだ寂しいのだろうな。というのは解るのだが。
「何食いたいの?」
「あそこで良いよ。以佐美食堂」
「あー、はいはい」
近所にある定食屋の名前を出され、頷く。オシャレな場所に行くこともないし、特別なこともしない。
北斗は俺と一緒にいて、何か楽しいのだろうか。
ともだちにシェアしよう!