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13 同伴デート

 掃除をしてスッキリしたあとは、予定どおり定食屋に二人して行った。北斗は好き嫌いが多い割りに、残したことはない。箸の持ち方がなっていないくて、何度か直そうとしたがマシになったくらいで直らなかった。 「最近、ヨシトさん来なくね?」 「あー。まあ、投資のほうで儲けてるっぽいから」 「マジかよ」 『ブラックバード』の現オーナーであるヨシトは、元々はホストだったが、今は引退してしまった。経営にさほど興味があるわけではないようで、投資やら不動産やら、そっちに手を出しているようだ。月に一度も顔を見せないこともある。大抵はメールでのやり取りだ。 「実質、アキラが経営者だろ」 「そんなこと言うなって。結構、ヨシトさんの外交で仕事あるとこもあんだから」 「そうなの?」 「そうだよ。今のビル買い取ったのもヨシトさんだし」 「ふーん」  他愛ないことを喋りながら、腹ごなしに散歩する。昼間、こうして街に出るのは久し振りだ。衣服の路面店を冷やかしながら、ブラブラ歩く。 「こういうの、意外に似合うな」 「そう? ふーん。買おうかな」  などと、服を見たりしている。北斗は何を着ても着こなしてしまうので、つい色々合わせてしまう。 「はは。悪いのも似合うなー。王子様キャラじゃなくなっちゃうけど」 「良いじゃんワイルド。キャラ変しようかな」 「辞めておけ。女の子と距離近くなるぞ」  俺の言葉に、北斗が渋い顔をする。 「なんか、同伴みたいだな」  こうやってホストと歩いていると、同伴出勤みたいな気分になる。俺もホストなのだから、おかしいのだが。 「アキラ最近、同伴しないね」 「あ? ああ――。まあ、俺の客、プロが多いし」  俺の客はキャバ嬢やら風俗嬢が多い。同伴してと言われたらするが、彼女たちも営業半分、気晴らし半分で来ているので、わざわざ同伴しないことのほうが多い。  昔はガチ恋してくれる女の子も居たんだけどな……。 「それだけ落ち目なんだろ」 「その代わり、ナンバー2と同伴してるじゃん」  北斗がするりと、俺の腕を取った。 「おい」  人前だぞ。そう言い終わる前に、北斗が耳許に囁く。 「この後、どうしようか……。まだ帰るには、早いでしょ?」 「っ、北……」  北斗の舌が、耳を舐める。ゾクッと背筋が粟立った。低く、艶かしい声に、腰が砕けそうになる。  気づけば、ホテル街の方へと連れてこられてしまった。じとっと、北斗を見る。 「ちなみに、拒否したら?」 「ホテルが嫌ならそこの路地裏でも全然良いよ?」 「ホテル行こう」  北斗の発言に、ゾッとして反射的にそう返す。北斗がクスクス笑っているのが、どうにも腹が立った。    ◆   ◆   ◆ (おかしい……)  なんで俺、ホテルに来ちゃったんだろうか。 「良いじゃん。鏡張りの部屋」 「良くねえよ……」  ベッド周辺の壁が、鏡で彩られている。なんというか、悪趣味過ぎる。せめて部屋の選択を任せるんじゃなかった。  頭を抱えていると、北斗が思い切りよく服を脱ぎ捨てた。その様子にビクッと肩を揺らすと、こちらを怪訝な顔で見て来る。 「? 何しに来たの? 脱げよ」 「絶賛後悔中なんだよ……」 「今さら」  北斗の唇が、俺の唇に触れる。優しく啄むようにキスされ、ピクンと肩が揺れた。上唇を噛み、舌先が擽ってくる。こういう、焦らすようなキスに、実は弱い。もっと深く口づけたくて、舌を伸ばす。北斗の手が俺の腰を撫でる。体温が上がる。鼓動が早くなる。 「んっ……、北斗……」  北斗の背に、腕を回す。しなやかな筋肉を撫でながら、キスを繰り返す。北斗の身体も熱い。熱っぽい視線に、クラクラする。 (北斗にガチ恋してる女の子には、出来ないことをしてる……)  北斗が、北斗を好きな子たちと出来ないことを、俺としている。その背徳感と罪悪感に、ざわざわと胸がざわめいた。俺は、それが嫌なのか、良いと思ってるのか、良く分からない。  けど、こうやって腕を回してしまっている時点で、後悔してるなんて言う資格などないのだろうと、なんとなく思った。
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