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23 良いよ
チャーハンを作ろう。
目を覚ました俺は、覚醒した頭で一番にそう思った。北斗を起こさぬようそっとベッドから抜け出して、冷蔵庫から卵とネギを取り出す。相変わらず、シンプルなチャーハンだ。
冷凍してあるご飯を取り出し、電子レンジにかける。油をたっぷり馴染ませたフライパンに、刻んだネギと卵を入れてお玉でかき混ぜ、チンしたご飯を投入する。
醤油を鍋肌に沿わせて入れたところで、不意に背中に重みを感じた。
「おはよう」
「北斗。……おはよう。危ないから、離れて。顔でも洗ってきな」
「ん」
俺の頭にキスをしてから、北斗はスルリと腕を離した。なんとなく、こんな何でもないやり取りが、愛おしく思える。
北斗が戻ってくると同時に、チャーハンは出来上がった。お茶を入れて、テーブルに着く。向かいには北斗が、自然に座る。
「昨日は、なんか、恥ずかしいとこ見せたな」
「全然、恥ずかしくない。案外、可愛かった」
「おい」
気恥ずかしさに顔が赤くなる。北斗がククと笑う。
「僕は、アキラのことは、カッコいいと思ってるけど、可愛いと思ったことはなかったからね」
「は――えっ」
どう反応して良いか解らず、戸惑う。カッコいいと思っていたなど、初めて聞いた。
「お、俺がカッコいいとか、何言ってんだよ……。なにか欲しいのか?」
「欲しいもんは一つしかないけどね……。別に、社交辞令じゃないよ。そんなこと言うわけない」
「ああ、うん。お前はそうだよな……」
どこがどうなって、そんな感想を抱いているのか疑問だったが、北斗の感性は北斗にしか解らない。カッコいいと思われているなら、それはそれで悪い気はしないのだ。
(というか、今が、その時なのでは)
チャーハンを口に運ぶ北斗を見ながら、じわりと頬が熱くなる。
保留だと、まだ付き合っていないと宣言したばかりだが、北斗が好きだと自覚してしまった。自分の性格上、先延ばしすると、またズルズルと引き伸ばすのは解っていた。
それに。
『だってー。十年愛でしょ? 純愛じゃない』
(もしかしたら、随分待たせたのかも知れない)
「北斗」
「んぁ?」
口一杯にチャーハンを頬張る姿に、目を細める。そんなに口に詰め込まなくても、ここにはもう、お前のものを取るひとは居ないのに。
「……欲しいもの、あるんだろ」
「ん?」
北斗が首を傾げる。
俺は黙ったまま。
口の中のチャーハンを呑み込んで、北斗がじっと俺を見る。
真意を探るように。
「――良いの?」
声が、震えていた。
俺は手を伸ばして、北斗の手をそっと握った。
「良いよ。やるよ」
「―――」
北斗が立ち上がる。ガバッと俺に抱きついたかと思ったら、あっという間に抱え上げられた。
「うわぁっ!?」
背の高い北斗に抱えられると、とても怖い。浮遊感に思わずしがみつく。
「落とすなよ!?」
「ビビり笑える」
そう言って悪ガキみたいな顔で笑う北斗の眦は、少し濡れて光っていた。
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