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32 これから

 事情聴取を受けて、解放されたときには翌日のお昼を過ぎていた。大口を開けて欠伸をして、俺は北斗を見上げる。 「ふあ……。佐月、どうなるかな……」 「赤澤さんが弁護に着いてくれるって話になったし、どうだろうね。詐欺罪が成立すれば実刑確定だっていうけど」  赤澤――というのは、萬葉町関係でよく動いてくれる弁護士だ。『ブラックバード』の関係者も、何かあれば赤澤さんに頼むことになっている。頼りになるひとだ。  赤澤さんの話では、ヤクザ相手に行った詐欺については、恐らく証拠不十分で不起訴になるだろうということだった。ヤクザは裁判沙汰にしたいと思っていない。報復はありえるが……。その他、余罪がどうなるかが、争点になるようだ。 「そう言えば、お前、どうやって俺のこと探したんだ?」  俺はタクシーで連れて行かれたのに、よくも追いついたものだ。ヤクザの方は見失ったようだったので、追跡は難しかったのだろう。北斗は「あー…」と言い淀んで、渋々と言った様子でスマートフォンを取り出した。 「GPS?」 「は? え?」  GPS? って、確か許可してないとさすがに見られないはず――。 「お前……」 「良いじゃん! 役に立ったじゃん!」 「良いわけあるかっ! アプリ消せ! ったく」 「僕、心配だったんだよ……?」  北斗が拗ねた顔をして、俺の腰を引き寄せる。そんな顔されても、俺は怒ってるんだが。  そう言えば、北斗の奴は昔から、勝手に家の合鍵を作ったりとやりたい放題だった。GPSもそんな感じで入れていたのだろう。今回は助かったとはいえ、こういうのは良くない。 「あのなあ、俺とお前はちゃんと恋人になったの。勝手にやらないで、ちゃんと許可貰えよ」  そう言って北斗の頭を小突いてやる。北斗は目を丸くして、それからふわりと微笑んだ。 「うん、僕とアキラは、恋人だ」  無邪気な笑顔に、仕方ないなと苦笑いする。どうにも、俺は北斗に弱くてダメだ。甘やかしちゃダメだと思う反面、もっと甘やかしてやりたくなる。 「アキラは、僕にして欲しいことないの?」 「んー。して欲しいことねえ……」  そう言われても、パッと思いつかない。 「北斗は、何かあるのか?」 「僕?」  北斗がニッコリ笑って、俺の腕を引っ張った。 「いっぱいある」 「いっぱい?」 「手を繋いで、歩きたい」 「もう歩いてるじゃん」 「ドライブしたい」 「ああ、お前免許取ったもんな」 「旅行、行ってみたい」 「ああ――そっか……」 「夜デート、してみたい」 「俺ら、夜職だもんな」 「一緒に料理、してみたい」 「チャーハン、作ってみるか?」 「お揃いの服着てみたい」 「……マジで言ってる?」 「お花見して」 「ああ」 「海に行って」 「うん」 「お祭り行って」 「……うん」 「遊園地も、水族館も、行ってみたいし」 「ああ、そうだな」 「クリスマスも、やってみたい」 「店で、じゃなく、だな」  北斗が楽しそうな顔をして、俺を見た。 「アキラとなら、全部やりたいよ」 「――ああ。俺も」  北斗となら、全部やっても良いかも知れない。時間は、たっぷりあるんだから。 「俺も、北斗とやりたいこと、出来たかも」 「マジ?」  問い返す北斗に、にまりと笑ってやる。 「一緒に、住もう」 「――う、ん」 「一緒に新居探して、家具選んで」 「食器も?」 「食器も。カーテンも」  楽しい妄想をしながら、指を絡める。北斗が、ふは、と笑った。 「新婚さんみたいだ」 「ヤメロ、恥ずかしい」  照れ隠しに返事しながら、手をぎゅっと握りしめる。 「指輪買いに行かないと」  俺は、ずっとこの街で、去り行く人を見送る側の人間なのだと思っていた。きっと最後には一人になって、寂しく死んでいくのだと思っていた。  けれど、そうじゃなかった。 (俺にも、ちゃんと未来はあったんだな……)  北斗の存在が、実感となっている。今は絶望の中にいても、きっと佐月にも未来はあって、やり直すことだって出来るはずだ。 「……そのうち、実家に顔出してみようかな……」  ポツリ、呟いた俺に、北斗は薄く笑っただけで追及してこなかった。 (うん。そのうち、実家に顔出してみよう)  今更だって思われるかもしれない。親不孝だと怒られるだろう。今度こそ本当に、勘当されるかも。  でも、俺はもう、幼かった子供ではないし、北斗だっている。カノも、ユウヤもヨシトも――佐月もいる。 「お前も、『のばら』の紹介しろよ?」 「……次のボランティア、一緒に行く?」 「うん。そうしようか」  太陽は明るくて、夜の仕事の俺たちには、ちょっとだけ場違いで眩し過ぎる。  色々やりたいことは出来たけど。 「取り合えず、今は眠りたいかな……」 「だね」  そう言って俺たちは部屋に帰ると、二人そろってベッドにダイブしたのだった。 完 読んでいただきありがとうございました。(o*。_。)oペコッ あと2話ほどおまけが入ります。(∩´∀`)∩ 最後までお付き合い頂ければ幸いです。
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