33 / 34
おまけ1 思ったときに実行するタイプの男
煌びやかなシャンデリア。シックな雰囲気の店内。
ここはホストクラブ『ブラックバード』である。東京の繁華街、萬葉町にる老舗ホストクラブで、俺はこのクラブで働くホストだ。
今年で三十になるアラサーホストとはいえ、店での人気はナンバー3。時々ナンバー4。まあまあの人気を誇っている。
そんな俺なので、大抵はヘルプに入ることはないのだが――。
今日に限って、俺以外のホストには指名がついていて、俺は指名が入ってなかった。その上、場内指名をとれる様子もなく満席である。つまり、どこかのヘルプに入った方がいい。
今日の人気者はもちろん、性悪後輩ホストの北斗である。今相手にしているのは女の子四人のグループで、顔に疲れが見えていた。
(仕方がない……)
北斗のヘルプにはあまり入らないのだが、ここは面倒を見てやろう。テーブルに近づき、ヘルプが座る位置に入ったのだが――。
「アキラくん偉い人なのにヘルプとか入るんだね」
「まあね。北斗はうちの稼ぎ頭だし。俺も応援してるからさ」
「へえーっ、仲良しなんだね!」
無邪気に笑う女の子は、上機嫌だった。女の子はホストがバチバチにやりあってるのも好きだが、仲良くしているのも好きだ。だからホスト内にはなんとなく、ライバル関係とか、協力関係とか、そういう構図を敢えて作っている。俺と北斗の場合、協力関係だ。
まあ、応援してるのは嘘ではないが、なんとなく癪でもある。俺は応援するけど、北斗から応援されたことはない。
「じゃあアキラくん、こっち座りなよーっ」
「え?」
仲が良いと思ったからか、女の子が何故か北斗の隣を指した。結果として、俺と北斗を真ん中に、両側を女の子が埋める形になる。
「あれ。なんかホストクラブじゃなくてキャバクラみたいなんだけど」
「えーっ。じゃあ私、シャンパン注いであげるね♥」
酔っているのか、女の子の方がノリノリになる。まあ、こういうノリも悪くないのだが。
チラリ、北斗を見た。顔色が良くない。先ほどから女の子に囲まれて辟易していた上に、大分飲まされている。
(おい、大丈夫か?)
こそっと耳打ちする俺に、北斗が視線を向ける。
「アキラ……」
ぼうっとしていた北斗が、おもむろに俺の頭に手を回す。
え。と思ったときには、時すでに遅し。
「んむっ!?」
北斗の唇が、俺の唇を塞ぐ。女の子が驚いて口許に手を当てた。
「おまっ……! 何してんだっ!」
無理やりひっぺがし、頭を小突くと、北斗は正気を取り戻した顔をする。
「あ。営業中だった」
「馬鹿がっ!!」
普段から、自分の好きな時に好きなことをしてるから、こういうことをするんだ。少しは自制心を持って欲しい。
恐る恐る女の子たちの様子を確認すると、ドン引きしてるかと思ったのに、何故かキラキラした瞳で俺たちを見ている。
「えっ、嘘ヤダ。仲良しってそういう……?」
「ヤバいヤバい。すごいツボなんだけど」
「イケメン×フツメン美味しすぎるぅ♥」
「もう一回!」
なんだ、この反応……。
戸惑っていると、北斗がなにか思い出した顔をした。
「もしかして、皆さん腐ってらっしゃる?」
「おい北斗、なに失礼なこと言ってんだ!?」
突然の暴言に、驚いて肩を叩く。だが、女の子たちは揃って笑顔を見せてきた。
「「「「うん。腐ってる♥」」」」
その言葉の意味は結局教えて貰えなかったが、彼女たちは常連になり、その度に北斗だけでなく俺も指名するようになったのだった。
ともだちにシェアしよう!