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愛してやまないチョコレート

すべてのきっかけは俺がチョコレートを愛していることから始まる。 昔から俺はチョコレートが大好きで、それはもう異常なほどだった。母親曰く、チョコレートさえあげていれば泣きもしないし癇癪も起こさない、チョコレートへの依存はすごかった、と。 だから俺は大人になってもチョコレートを食べることをやめなかった。世界中からありとあらゆるチョコレートを探し出しては食すのが俺の趣味であり生きがいだった。 そんな折、俺はとあるチョコレートに出会う。嗅いだことのない芳醇な香りを有していて、甘いながらもコクがあり、今まで食べたチョコレートの中でもダントツに美味しものだった。友達からもらったそのチョコレートは輸入品と書いてあり、たった3つしか入っておらず、あっという間に食べてしまえた。 またあのチョコレートが食べたい。俺は友達にあのチョコレートを売って欲しいと懇願した。あんな美味いものは食べたことがない、と。しかし友達は渋い顔をした。曰く友達の友達の友達、そのまたさらに友達仕入れたものらしく、中国の闇市で流れていたものをたまたまゲットしたものらしい。買うのはほぼ不可能だろう、と。 一時はそれで諦めがついた。さすがに海外の、しかも闇市なんて恐ろしい場所で売買されていたものをわざわざ買うのはやめるべきだ、と。 しかし毎夜毎夜あのチョコレートが俺の舌の上に乗る夢を見るようになり、そのたびに俺は飛び起きて別のチョコレートでその感覚を消し去ることが日常になってしまった。 あのチョコレートが食べたい。食べたくて仕方がない。 そして俺はとうとう会社に一週間の有休を申請し、件のチョコのパッケージ片手に中国に渡航した。 中国に渡った後は非常に苦労した。25年間生きてきた中で中国語を使うことなんて全くなかったから、スマホを片手にすべての日本語を中国語に翻訳してもらい、どうにか生きる。ホテルを取っていなければ、もちろん友達がいるわけもないので頼る人もいない。準備もなにもなく中国に来たことを何度後悔したことか。 しかしこれもあのチョコレートのため。そう思ってどうにか自分を奮い立たせていた。 「あ、あのすみません…Excuse me」 英語なら少しは通じると気づいた俺は、そのおかげである程度の会話ならできるようになっていた。それが3日目。 この頃にようやくそのチョコレートがどこの闇市で売られているかを知ることができ、どうにかその闇市に連れて行ってくれないか、と交渉をしていた。 でも誰一人として首を縦に振るものはいなかった。それはそうだろう。現地の人ですら危ないと感じているものに一緒に来てくれるなど、ましては素性も知らない外国人である俺を案内する義務などどこにもない。 「失敗…」 5日目も失敗続きで、このままじゃチョコレートと出会えぬまま帰国することになってしまう、と公園のベンチに座り込み落ち込んでいた。 もう無理なんだろうか、そう諦めかけた時だった。 『~~?』 中国語で話しかけられた。 「え」 『~~~~~?』 顔を上げると小さな子供に顔を覗き込まれていて、びっくりして飛びのく。子供はきょとんとした顔をした後くすくすと笑った。その行動に俺はスマホから翻訳機を開いた。 『びっくりしてごめんね』 そう打って翻訳し子供に見せると、首を縦に2回振った。 『~~~~~~?』 なにかを聞いてきている雰囲気だが、何を言っているかわからない。仕方なくもう一度翻訳機で『中国語わからないんだ』と打って翻訳してそれを見せた。子供はすぐにそれを読むと、また縦に2回首を振り、今度は英語で『どうしたの?』と聞いてきた。かなりありがたい状況だ。 『困ってるんだ』 『どうして?』 『チョコレートを探してるんだけど、ちょっと買いに行けなくて』 『チョコレートならそこのスーパーにも売ってるよ』 子供が後ろにあるスーパーをゆびさす。 『そうなんだけど…俺が欲しいのはそこじゃ売ってないやつなんだ』 子供は首をかしげると、何かを思いついたかのように手をパン!と叩いた。 『クゥコーダチョコレート?』 その名前は聞き覚えがある。たしかチョコのパッケージに書いてあったのと同じ発音だ。たしか中国語で美味しいって意味。 『そうそれ!君知ってるの?』 大きく頷く子供。もしかしてこの子なら…と、一縷の望みにかけて聞いてみる。 『ねえ、そこに連れてって貰うことってできたりする…?』 聞いてから、なんて酷いことを聞いてるんだと思った。子供にそんな場所に連れて行って欲しいと頼むなんて、危なすぎる。 言ってから後悔していると、子供は少し上を向いて悩んだ後、いいよと言ってくれた。 『い、いいの?!危なくない?本当に行ってくれるの?』 『うん!私貴方のこと気に入ったから連れてく!』 ありがとうと思わず子供を抱きしめてしまう。子供はまたくすくす、くすくすと笑っていた。  

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