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第13話 茂人side惚気と波乱の前触れ

 大学のカフェでスマホを眺めてニヤニヤしていると、いつものメンバーがやって来た。相変わらず目ざとい拓也が俺を揶揄った。 「ちょっと、ちょっとぉ?最近茂人がご機嫌だって噂、本当だったみたいだな?」  他の奴らもニヤニヤして俺を見てきた。俺は肩をすくめて浮かび上がる笑みを隠せずに言った。 「ご機嫌ですけど何か?」  一瞬で盛り上がる友人たちに少し照れ臭い気がして、思わずニヤけてしまった。そんな俺を見て拓也がボソリと呟いた。 「茂人がそんな風になるの珍しいよな。…恋人でも出来た?それとも彼氏彼女?」  妙な聞き方をするなと思ったけれど、俺は迷いなく言った。 「恋人ですけど。俺の可愛い恋人。」  すると拓也が考え込む様に恋人と彼氏彼女の違いは何かと尋ねてきた。いつも馬鹿っぽい事しか言わない拓也が、妙に真剣にまるで禅問答の様な問い掛けをするから、俺たちはそれぞれの見解を示して盛り上がった。  案外皆の捉え方が違って面白い。俺の番になって、俺は楓君の事を思い出しながら答えた。 「二度と会えなくなったら、一生後悔しそうなのが恋人。他の奴と仲良くしてたら、抱き潰したくなるほどムカつくのが恋人。運命を感じるのが恋人。」  途端に仲間から、重いだの、執着酷いだの、随分の言われ様だったけど、実際そうだからしょうがない。そんな俺をじっと見つめて拓也がため息をついた。 「いいなぁ。お前、本物の恋してるんだな。俺はもしかしたら恋した事ないのかな。今まで可愛いからって声掛けて、直ぐに付き合って、イチャイチャしてさ。段々鬱陶しくなって、キレられてお別れ。このパターンばっかりだもんな。」  俺はいつになく凹んでる拓也に笑いかけた。 「お前は軽すぎなんだよ。俺も人の事言えなかったけどさ。でも凄い大事な相手見つけたから、もう浮かれちゃって。」  仲間にリア充と揶揄われながらも、拗ねた様な拓也に付き合いたてで、馬鹿みたいに盛ってるせいだと当て擦りを言われた俺は、思わず苦笑してボヤいた。 「全然。手を出せなくてさ、キスで精一杯。嫌われたくないし、初心な子だから、大事にしてるんだぞ。こんなに怖いの初めてで、俺も戸惑ってるわけ。でもそれでも可愛いからしょうがないよね。」  途端に、盛り上がる仲間に冷やかされるのも少し嬉しい気がして笑っていると、拓也がため息をついて俺を見つめて言った。 「いいなぁ。俺も本物の恋がしたいよ。夢中になれる相手が欲しい…。何で俺の周りはリア充ばっかりなんだよ。」  皆と別れながら、俺はスマホをもう一度見つめた。そこには楓君からの返信が届いていた。今日はバイトで18時上がりなので、夕食を一緒に食べられるとあった。さっきニヤついていたのはこの返信が届いていたせいだ。  自分でも驚くほど舞い上がっているのを感じて、少し落ち着かなくちゃと気を引き締めた。あんまり押せ押せだと、楓君が引いても困る。  そんな事を思いながら、楓君のバイト先に急いだ。終わるまで、30分ほど店で楓君の働く姿を見るのも楽しいかもしれないと思ったからだ。  この前も思ったけれど、楓君はスタイルが良い。華奢に見えて、水泳をやっていただけあって体幹が整っているんだろう。髪質が良いのか、大学生でよくあるマッシュの髪型なのに、爽やかに見える。俺はもう少し長い方が好みだけど。  店の外から覗いていたら、すぐにバレちゃってにっこり笑いかけられて、何だか心が疼いた。自分でも不思議だけど、楓君の事が好きだと認めてしまったら、馬鹿みたいに楓君がキラキラして見えて、胸が締め付けられるんだ。  それでもカッコいいところを見せたくて、俺は店に入ると余裕ぶってテーブルについた。タイミング的に楓君じゃないスタッフがオーダーを取りに来てガッカリしたけど、顔に出さないように踏ん張った。  注文を終えて無意識に楓君を目で追うと、スタッフの男と妙に仲良くして見えて、胸が騒ついた。俺は本来こんな事で嫉妬するような男じゃなかった筈だ。今までの彼氏や彼女に下手すれば冷たいって言われていたくらいだし。  月に一度楓君と会って、その表情がどんどん明るくなっていく姿、健気な楓君にすっかり俺は自分の気持ちを動かされていた。それに気づく事もなく二度と会えないって実感してから、後悔してばかりだった。その喪失感は、再び楓君が手の届くところに現れた途端、失えない執着に変わった気がする。  時々チラッと俺の方を見て嬉しげにする楓君が可愛すぎて、口元を緩めないようにするのが精一杯の俺は、顔を逸らした楓君が強張った表情をしていたのに全然気づけなかった。  後になって思えば、立花が余計な事を言ったせいで、楓君が俺の気持ちを誤解していたって言う単純な話だった。けれど恋愛初心者の楓君が、俺の気持ちを読み間違える事もちゃんと想定しておかなくちゃいけなかったんだ。  でもその時の俺は楓君とのデートに浮かれていて、全然心づもりが出来てなくて呑気にデレデレしてただけだったけどね。

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