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第18話 走る身体※

 結局、茂人さんの人並み以上の昂りに捏ねられて、僕は容易く逝かされてしまった。そのすぐ後に、茂人さんに言われるがまま添えた、ぬめりが増した手の中の僕自身に叩きつける様な茂人さんの激しい腰使いによって、また追い込まれてしまった。  休みない絶頂は僕をぐったりとさせて、瞼も張り付いた様に開かなかった。けれど、切羽詰まった吠える様なうめき声の後に僕に重なった、汗ばんだ茂人さんの重みは、この想像以上の快感が現実なのだと、僕に信じさせた。  いつも感じていた茂人さんの香りに包まれて、僕は思わず息深く吸い込んだ。そんな僕の耳元で感じていた茂人さんの荒い息遣いが、収まってきたのに気づいたのと同時に、自分の下半身が酷い有様なのにもハッとした。  僕が身動きすると、ドロドロの身体をタオルでサッと拭った茂人さんは僕をしっかり抱き寄せて、唇に触れるキスをして言った。 「俺、楓君が可愛すぎてマジで早かったよね。でも楓君が逝くの見てたら、もう堪らなくなっちゃって。楓君、凄く色っぽい。普段可愛いのに、こんな時は色っぽいとか、俺を殺す気?」  そんな事を抱きしめられた腕の中で甘く囁かれたら、僕はドキドキして、何なら泣きたくなってしまう。好きな人に大事にされて、愛情を訴えられると、こんなにも胸が震えるなんて全然知らなかった。  僕がそう思いながら、ぼんやり茂人さんの顔を見つめていると、茂人さんは苦笑して僕から手を離して起き上がった。 「これ以上、くっついているともう一度襲っちゃいそうだ。シャワー浴びて眠ろう。まだ楓君も本調子じゃないだろうから。俺がこんな事して言うのもアレだけど。」  サッとシャワーして寝支度を済ますと、僕たちはベッドに寝転がった。 「はい。」  そう言って、腕を伸ばした茂人さんが僕を抱き寄せてくれて、僕はそんなに分かり易く甘えたいって顔に出ていたのかなと恥ずかしく思った。けれど、茂人さんは甘い声でボソリと呟いた。 「はぁ、最高。楓君て俺の腕の中にぴったりするよね。何かこう言うちょっとした感じが、本当にいちいちツボなんだけど。…明日元気だったら、デートしようね…。」  それっきり黙りこくった茂人さんを僕がそっと見上げると、静かに寝息を立てていた。僕は初めて見る無防備な茂人さんの顔を、間接照明のほんのり明るい光越しに見つめた。  寝顔までカッコいいとか狡いけど、いつもスタイリングしてる決まった髪型でない茂人さんが少し幼く見えて、実は僕とそんなに歳は違わないのだと改めて実感した。  レンタル彼氏の時は、都会育ちの大人っぽい茂人さんと、地方から上京したばかりの僕とじゃ年齢以上の差を感じていたけれど、茂人さんはそうは言ってもまだ大学4年生なんだ。  とは言え僕が2年後に、茂人さんの様に大人びた大学生になれる自信は全然無かったけど。そんな事考えているうちに、僕は眠ってしまったみたいだった。 「楓君、そろそろ起きる?」  そう声を掛けられて意識を浮上させた僕は、次の瞬間ハッと目を覚ました。茂人さんはシャワーを浴びたのか、髪をタオルで擦りながら上半身裸で腰にスエットを引っ掛けてキッチンに立っていた。  僕はコーヒーの良い香りを感じながら、ぼうっとしながら洗面所に立つと、顔を洗って歯磨きをした。洗面所に置かれた新しい歯ブラシが、今や彼氏の茂人さんの存在を見せつける様で、思わずニヤけてしまったのは我ながらどうしようもなかった。  リビングに戻ると、テーブルにカフェオレが用意されていた。ベッドに腰掛けてお礼を言って飲めば、僕好みのミルクと砂糖たっぷりのカフェオレで、僕は思わずキッチンに寄り掛かってブラックを飲んでるであろう茂人さんを見上げた。 「茂人さん、僕の好み知ってたんですね。」  すると茂人さんは、楽しげに笑って言った。 「俺たち必ず月一回きっちりデートしてただろう?だからそこそこ楓君の好みは良く分かってるよ。今まで楓君が俺に会うために努力してくれていたから、これからは俺が楓君に会うために頑張らせてもらうからね。俺が奢っても断ったりしたらダメだよ?」  僕が茂人さんがブラックコーヒー好きなのを知っている様に、僕の事を茂人さんが見ていてくれた事に嬉しくなっていたけれど、茂人さんの言葉に顔を上げた。 「…僕が茂人さんと会っていた事で実際救われたのは本当ですから。それは茂人さんが返してくれなくても良いですよ。僕はその時とは別の二人の関係を作っていきたいです。昨日、茂人さんの寝顔見て思ったんです。僕、必要以上に茂人さんに寄り掛かってたんじゃないかって。」  茂人さんはグイッとコーヒーを飲み干すと、流しにカップを置いて、ベッドに腰掛けていた僕の隣に座った。そして僕を抱き寄せて言ったんだ。 「もっと寄り掛かってよ。そしたら、俺も楓君に甘えやすいだろう?恋人ってのは、甘えて、甘やかしてなんぼだからね?それとも楓君は俺に甘えないつもり?俺、楓君の事思いっきり甘やかしたいのに。」  そう言って甘える様に僕の顔を覗き込んだ。ああ、茂人さんは恋人のプロなのかな…。これ以上ドキドキしたら死んじゃう。

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