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第22話 クリスマス前に
アルバイト先の閉店後の控え室で、僕たちはちょっとした解放感で話が盛り上がっていた。
「今頃、今野と笹川がイチャイチャスノボ旅行だぜ?羨ましいなぁ。」
そう立花さんがボヤくのを聞きながら、口元を緩めた。すると2ヶ月前に入ってきた新人の一つ下の長谷川くんが僕に尋ねた。
「森さんはスノボとかやるんすか?」
僕は顔を上げてにっこり笑うと言った。
「うん。僕の地元はスキー場まで車で1時間くらいだったからね。子供の頃は親が連れていってくれたし、高校生の頃は友達の兄弟が車出して、連れて行って貰ってたよ。」
すると長谷川君が羨ましい気に言った。
「良いなぁ!俺も去年行ってからどハマりしちゃって。でもいつも一緒に行ってた奴が怪我してて、まだ今年行ってないんですよ。ああ、俺にもスノボ連れて行ってくれる友達のおにーさんが欲しいよ!」
すると立花さんがコートを羽織りながら言った。
「しょうがねーな。俺様が連れて行ってやるか?今年は雪が多いから、日帰りで行ける場所もあるだろ。都合つくなら泊まりでも良いけどな。… 森くん、あいつも誘うか?」
立花さんがチラッと僕を見てニヤリと笑った。僕は挙動不審になったけれど、立花さんが直ぐに誤魔化してくれたから長谷川君に変に思われなくて済んだ筈だ。
駅から家への道すがらスマホが光って、僕はふっと微笑んだ。茂人さんからのメッセージだった。スノボ旅行に立花さんから打診が入ったみたいだ。僕は茂人さんと一緒に行けると思ってなかったから嬉しかった。…でも他の人も居るのに、何か一緒に行動するのはちょっと気恥ずかしい。
部屋に戻ると、実家にスノボのウェア一式を送ってくれるように頼んだ。ボード一式は借りることにして、すっかりスノボ旅行に心が浮き立った。カレンダーを眺めて、旅行が丁度クリスマス直前の時期なのに気がついた。
祖母の入院の見舞いもあって、帰省を早めてくれと頼まれていた僕は、クリスマス前に東京を離れる。茂人さんと最後にゆっくり出来るのは、スノボ旅行だけかもしれない。
僕は泊まりなのに二人きりになれないのがちょっと寂しかったけれど、いつも暇さえ有れば一緒に過ごしている僕たちなのに、自分の貪欲さに呆れるばかりだった。
「はぁー!マジで最高っす!」
ご機嫌な長谷川くんに僕は思わず笑って言った。
「一番転んで体力使ってる長谷川君がそんなに元気じゃ、僕も頑張らないと!」
そんな僕の側に滑って来た茂人さんが、息を切らせて言った。
「二人とも凄い速いから。追いつくのが大変だよ。森君、上手いんだね、カッコよかったよ。」
僕がゴーグルの下で笑うと、長谷川くんが茂人さんに食い付いた。
「いやいや、木崎さんめちゃくちゃ上手いじゃないですか。立花さんもだし。まったく二人ともイケメンで上手いとか弱点無さすぎでしょ。」
僕が思わず頷くと、茂人さんが長谷川君に笑いながら言った。
「俺の弱点は恋人かな。恋人にはからっきし弱いんだよね。…森くんも知ってるだろう?」
急にそんな事をブッ込まれて、僕は思わず固まってしまった。そんな僕を見て微笑む茂人さんも、惚気キターと叫んで雪の上に転がる長谷川くんにも、僕は冷静になれなくて、ゴーグルをしていて良かったとホッとしてしまった。
遅れて滑って来た立花さんが合流すると、もう一度僕らは滑り出した。茂人さんと一緒に滑るスノボはいつになく楽しくて、元気な長谷川君と、隙あらば休みたがる立花さんに随分笑わせてもらった。
宿泊先のリゾートホテルは、茂人さんのツテで随分割引きが効いたみたいだった。ツインをふた部屋取ったので、立花さんが気を利かせて、長谷川君を自分の部屋に引っ張って行った。
夕食の時間まで休憩しようと、僕らは目の前がスキー場の見晴らしの良い部屋に入った。心地よく疲れた身体を引き摺って窓際まで行くと、ポツポツとナイターの灯りが灯され始めた。
後ろから抱き寄せられて、耳元で茂人さんが尋ねた。
「ナイター行く?長谷川君絶対行きたいとか言いそうだね。…立花は酒飲んだらもう無理かも。#森__・__#くんはどうしたい?」
僕はクスクス笑って、この閉ざされた二人の空間に気持ちが浮き立って答えた。
「そうですね…。ナイターも良いですけど、でも立花さんの酒盛りに付き合わされそうじゃないですか?ね、#木崎__・__#さん。」
不意に身体を回転させられて、茂人さんが僕に腕時計を見せて言った。
「だったら余計、さっさとシャワー浴びて良い事しようか。1時間以上あるし。」
途端に疼く僕は、すっかり茂人さんに調教された気分だった。僕は熱くなった息を吐き出して言った。
「じゃあ、早くしないと。僕、茂人さんのカッコいい姿にゾクゾクして堪らなかったから…。」
僕を見て眉を顰めた茂人さんが、苦し気に呟いた。
「はぁ、俺の恋人はいつでも煽ってくるから、本当堪らない。」
そう言って、僕の手を引っ張って浴室へ向かった。
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