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「姫宮様が秘密にしたいものの度合いによりますが、私であれば、どちらにせよ相手が話すまで気長に待ちますね」 「気長に⋯⋯」 「ええ、本人がその時は言いたくなくても、どこかのタイミングで聞いて欲しい時がありますので」 「なるほどな⋯⋯」 見舞いに行った時、自身の痛ましい姿すら見られたくなさそうに俯いていたほどだ。 あの時は話したくなさそうであったが、いつかは。 「私の妻も隠していることがあるんですよ」 「そうなのか」 「ええ。とはいえ、私の妻の場合は大抵、愛する我が息子・伶介のことなんですよね。幼稚園の行事がそりゃあもうたくさんあってですね、幼稚園生だけで行くこともありますが、親子遠足なるものがありますし、クラスで工作を一緒に作ったり、そして何よりビックイベントといえば、運動会です! 我が子が一生懸命かけっこしたり、玉入れしたり、その日のために頑張って練習したのであろうダンスを披露したり⋯⋯そんな家にいる時とは違う成長を余すことなく撮影したり、親子で参加する競技でここぞとばかりにいいところを見せたりするのも醍醐味で! ⋯⋯それらの楽しみで仕方ない行事を、私が多忙であるがために言うのを躊躇っている素振りを見せて、妻は息子のそんな姿を独り占めしたいんですよ⋯⋯! 後々、実はこういうのがあったのだと、写真を見せびらかしてくるんですが、喜ばしくも悔しくもあるんです。ですが、写真でも可愛らしい笑顔を見せてくる我が子に癒され、生でも見たかった気持ちが大きい分、送ってきてくれた写真や動画を何度も見て、生で見た気になり、そして、仕事の活力に──」 またか。 御月堂は一向に止まらない愛する息子の話に辟易していた。 どこで話に火を着けてしまうのか分からないものだなと思ったが、どんな話をしても松下は何かとその話をしたがるのだろう。 その点に関しては困ったものだ。 秘書達の中で一番優秀であるから指名したというのに、こんなにも家族思いだとは思わなかった。

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