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「本人に詳しく聞く機会は得られなく、ここからは私の憶測なのですが、こちらが改めて訊ねてもきちんと説明しなかったのではありませんか? 例えばこの書類をどこの誰に渡せばいいのかと訊かれた際、『そこに書いてある』と言われ、探してみてもそのような旨がなく、再度訊ねようにもすぐにまた違う用事ができてしまったり。とはいえ、違う用事が出来てしまうのは仕方ないことですけどね。数分単位でスケジュールが詰まっているのですから。ですけれども、もう少しその点の説明があればと思います。いくら社長を支える立場として、秘書の中で優秀な人材を選んでますが、それでも社長の全ての意図を汲み取るのは難しかったかと思います」
「私がある程度引き継ぎをしたとしても、場合によっては分からないことがありますからね」と松下は言い終わらせた。
例えを出されても、やはり松下と同じようなやり取りだった。それがどういった具合で勘違いをし、提供先の病院の信用を欠ける結果となってしまったのか。
「あと一つ、関連性のある原因がありますね」
「なんだ」
御月堂では皆目見当もつかないものだから、すぐさま促した。
すると、松下はこう言った。
「それは、表情が乏しいことです!」
語尾を強めて言った。
至極真面目な顔をして、何を言い出すのかと思ったら。
ものすごいものを発見したというような興奮を混じえた顔つきでいる松下とは裏腹に、御月堂は拍子抜けしていた。
「社長は、いつも何を考えているのか分からない顔をしているではありませんか!」
「それでもお前は分かっているじゃないか」
「それは社長と呼ばれる前から知っていますので、珈琲が口に合わなかったとか、いつもより多忙を極めて心に余裕がなさそうだとか、次の予定が迫っているというのに、先方の話がなかなか終わらず、疲れきっているだとか、そんな機微な表情を読み取るだなんて造作ありませんよ」
「⋯⋯そうか」
さすが学生と呼ばれる頃から一緒にいる者は違う。
自分が早急に社長にならねばならない時に、社長秘書として指名した甲斐があったものだ。
あの頃は互いに手探りで死に物狂いであったが、今はそんな過去があったなと余裕で話せるぐらいになった。
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