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第4話

中央に置かれたベッドは簡素なものの、大人三人が横になって問題ない程度の広さがあった。 僕はミカエルの隣に腰掛けると、ネクタイを解いた。 セックスをするというからには、裸になるのが常識かと思い、ワイシャツを脱ぐ。服を脱いでるのが恥ずかしくて、ミカエルから背を向けてしまった。露わになった背中をミカエルが指でなぞる。突然触れられて、僕は小さく肩を揺らした。 「君って、意外といい体してるんだね。鍛えてるの?」 「筋トレが趣味で……」 指先で触れられているだけだというのに、緊張して意識がそちらにいってしまう。彼の指は、左から右へと移動して、肩、首筋を撫でた。気配を感じて背後を見ると肩のすぐ傍にミカエルの顔があった。 「ふぅん、モテたくてとか?」 「最初はそうやってんけど……。女と違って、筋肉は努力を裏切らへんから」 「うん、その思考はモテなさそうだ」 (笑顔でなんて事を言うんや) 「キスでもしてみる?」 からかうように天使が笑う。僕はミカエルの両肩をぎこちなく掴むと言われた通り、唇を合わせてみた。 (柔らか……) 生まれて初めての触れる唇の柔らかさに僕は密かに感動した。ミカエルのほのかに紅潮した頰と長い睫毛が美しい。 (俺……、男もイケるかも。胸の平らな女の子やと思えば……) 微かな希望を抱いて、その手をミカエルの胸の飾りに向かった時、不意にその手を掴まれた。 「あっ、いっけね!」 何かを思い出したような口ぶりだが、どこかわざとらしい。ミカエルはウインクするとペロリと舌を出した。 「僕、天使だから、ケツの穴ないんだった☆」 「天使がケツ言うな。……って、え?」 「ごめんね。僕、君の童貞を貰うことができない。だから、代わりに君の処女を貰うことにするね」 淡々と代替え案を提示するミカエルの言葉がとっさに理解できない。僕はそのまま、ミカエルに押し倒された。 (僕の処女……? 処女ってつまり、僕が女役っていう……) 「ハァァァァァッ!? いや、無理無理無理無理!! 掘られるぐらいやったら、死んだ方がマシや!」 僕の拒絶にミカエルは困ったように眉を寄せると、羽根を手にとって悲しそうにそれを見つめた。 「そう、仕方ないね……。手足を切り落とすしか……」 「抱いて! 天使様!」 自分の意思に関係なく最善の答を叫ぶ。これこそ、社畜がなせる技であろう。

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