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第7話

ミカエルの視線は何かを見据えているようだった。しかしその視線を追っても、ただ天井が広がっているだけだ。しばらく時間を置いて、ミカエルは再び口を開いた。 「いいじゃない。僕らはセックスしたと言えるよ」 「ミカエル、誰と話してるん?」 「神」 「神っ!?」 神って、十字架に磔られてるあの方か。それとも背中から何本も手が生えてるあの方か。 どんな神にせよ、僕がこれまで生きてきた中で一番偉い人と対面しているに違いない。 「僕をこんな部屋に閉じ込めるなんて、神ぐらいしかできないよ。全くふざけてるよね。少しは人を助けて、天使らしいことをしろだなんてさ」 一瞬僕には向けた視線は、すぐに天井に戻された。そして天に反論するように少し語彙を強めた。 「だから、彼はケツでイッたんだからいいじゃないか」 (神に向かってなんてことを言うんや) 僕の心配をよそにミカエルはさらに畳み掛ける。 「ただの扱き合いならオナニーとも言えるかもしれない。だけどケツだよ。気持ちが通じ合わないと絶対にできない。つまり、これはセックスだ!」 こいつ、ケツでイッたって連呼しすぎやろ。鬼畜か。鬼畜なんか。 神に向かって自分の粗相を他人の口から連呼される。こんな鬼畜が許されてたまるか。 「おい、ミカエル」 「しっ、今、審議中なんだ」 ミカエルは唇に人差し指を当てて、僕をにらんだ。 「審議中……? 神様って何人かおるんか」 「七人の神が判定している」 「七人の神って、もしかして宝船に乗ってるあの方々か」 福をもたらしてくれそうな神々を思い浮かべ、僕はほんの少し今後の幸せを期待した。 「あの方たちが来るわけないだろう。もっと性に貪欲な神。ーーそう、四十八手の神々だよ」 「誰やそいつら」 「ああ、童貞の君には関係なかったかな。性技ひとつひとつには神様が宿っているんだよ」 「お米みたいに言うのやめろ」 スルーしたが、多分童貞じゃなくても知らんぞ。 「いずれにせよ、君は光栄に思うべきだよ。セックスには欠かせない体位四十八手の神々から選抜された神セブンが駆けつけてくれたんだよ」 「……つまり、僕は変態の神に見守られていたということやな」 選抜とか神セブンとか深く突っ込んではいけないワードをなんとかスルーした。 そして、早くこの狂った部屋から出たいという思いがいっそう強くなった。

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