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第9話

屈辱に体を震わせていると、突然地響きが鳴り出した。 (え、なに? 神の前で変な事言うたから、怒られるんか? 殺される?) パニックになりながら、ミカエルを抱きしめると天井から背を向けるようにしてベッドに押し倒した。これでもし上から何か降ってきても、自分が盾になれるだろう。どれだけ性格は悪くても子供のような見た目の彼を守ってしまうのは、多分僕のエゴだ。 「あ、開いた」 「は……?」 意味が分からず、ミカエルを見た。ミカエルが壁を見つめている。その視線を追うと、壁に人一人がが通れるほどの穴がぽっかりと空いていた。 「神が僕らの『セックス』を認めてくれたんだ。良かったね、帰れるよ」 ミカエルは少し寂しそうな笑みを浮かべると、ふわりと羽根で僕を包み込んだ。 神にセックスを認められた。 つまりそれは、ケツでイくのはセックスであると世界的に認められたということか。 いや、そんなことより……! 「三百年ちゃうんか!」 「久しぶりの地上だったから、時間の感覚がちょっと鈍ってたみたい」 「三百年と五分の差は、ちょっとの騒ぎちゃうぞ」 「ごめんね、せっかくやる気出して押し倒してくれてるのに」 はっと気づくと、確かにミカエルは僕の腕の中にいた。先程の地響きからとっさに守ろうとした時に押し倒したままだった。僕は慌てて身を起こして彼から離れる。 「ちゃうわ!  誤解や」 「どうして? 可愛くおねだりまでしてくれたじゃないか」 (あかん……、これは喋れば喋るだけドツボにハマるやつや) 僕は口を真一文字に結ぶと、ミカエルから離れた。ベッドから立ち上がると、脱ぎ散らかした下着やスーツを着た。そして、壁にあいた穴へと向かった。その穴は四角く切り取られており、その向こうには夜空が広がっている。覗き込むと下に夜景が光っている。この穴はまるで空に開いた扉のようだった。ここからわずかに人影が確認できる程度の高さだ。この夜景には見覚えがある。 (会社の近くか……) 「君って面白いね。気に入ったよ、エイジ」 ミカエルが初めて僕の名前を呼んだ。 いつの間にか背後に立っていた天使に内心驚いた。しかし、帰り道が示された今、この性悪男に怯える必要などない。僕はミカエルをビシッと指差した。 「気に入らんでええわ。次、会ったらメッタメタのギッタギタにしたるからな!」 「そう。また会ってくれるんだね」 ミカエルは僕の言葉に怒りも見せず、笑顔でただそう言っただけだった。 そして背中から抱きついてきたかと思うと、そのまま僕を持ち上げて穴の外へと飛び出した。羽根を羽ばたかせて、僕を軽々持ち上げるミカエル。肩越しに邪悪に笑う天使に僕は非常に嫌な予感がした。 「またね、エイジ」 その言葉とともにミカエルの腕は離され、僕は上空から落とされた。 「う……、うわぁぁぁああああッ!」 悲鳴を上げながら僕はどんどん小さくなっていくミカエルに向かって、助けを求めて両手を伸ばした。 そんな僕を見下ろしながら、ミカエルは鬼畜よろしく笑顔で手を振っていた。

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