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第3話
顔合わせから一週間が経ち、マリンか
らのメッセージは毎日くるが、返せずにいた。
ぽんと通知音が鳴り、心臓から嫌な音をする。パソコン画面から視線をずらすとやはりマリンからだった。
《お疲れ様です。今日はこうめの様子を見に行ってきます》
ということはあそこの水族館には行けないかと溜息を吐く。それとも言外に誘われているのだろうか。
マリンとは生活圏が近く、行きつけの水族館も被っている。お互い在宅勤務が多いらしく、時間帯も似ているため偶然会わないように配慮してくれているのだろうか。
考えれば考えるほどドツボに嵌って抜け出せなくなる。
相談相手もいないので解決策がわからない。
これまで数々見てきた掲示板の知識を総動員させても答えに辿り着けそうもなかった。
やはり自分如きの底辺が恋愛をしたいとドアを開けたのがいけなかったのだ。恋愛は見ているに限る。
ガラス越しで見つめる魚たちのように恋に恋する人たちを応援し、自分もした気になっている方が傷つかないし安全だ。
(返事しないと……)
なんと書けばいいのかわからず、画面を睨みつける。いってらっしゃい、気をつけてが無難だろう。
それとも俺もご一緒してもいいですかだろうか。
それは無理。
マリンは悪い人ではない。
でも、と自分勝手な考えが過ぎり、ひねくれた性格がほとほと嫌になる。
ぽんとまた通知が鳴り、まだ返信していないのにと身構えたが会社用のスマートフォンからだった。
《新入社員と中途採用の歓迎会を二十七日
にやります。出欠の確認をお願いします。》
文面を見て顔をしかめる。
完全リモートワークのいまの会社は社長以外の従業員と顔を合わせたことがない。必要なことは全部メールで済ませることができる。
だが自分のために歓迎会をやってもらうなら出席しないわけにはいかない。
重たい溜息を吐いて出席ボタンを押すと店のURLが記載されたメッセージがすぐにきた。
《十九時までに来てください。場所がわからなかったら連絡ください。榊》
「榊さんが幹事なんだ」
榊とは仕事を組むことが多い。顔も性別もわからないが、文面からして女性だろう。でもマリンの文章だけで勝手に期待した前科があるので自分の勘は当てにならない。
どうせ仕事上の付き合いだけだ。
飲み会は苦手だが、そこは社会人として我慢しよう。
とても仕事をする気にはなれず、早々に退勤ボタンを押し、マリンへのメッセージは見なかったことに決めた。
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