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第9話
家に着くと再びマリンからメッセージがきた。
《深川さんとどうだった?》
どんな神経でこんなことを訊いてくるのだろう。
(俺のことがタイプだと言ったくせに)
それなのに敵に塩を送る榊の心理が理解できない。
こうもあっさりと手を引かれると自分への想いは薄っぺらいと言われている気分だ。
《いい人そうです》
《口悪いけど根まで腐ってないよ。すごくお似合い》
ぺろりと心臓の裏を舐められたような気持ち悪さがあった。
なにをどう思って深川とお似合いだと判断したのだろうか。飲み会は終始聞き役に徹していたし、自分の話で盛り上げた記憶もない。
『こういう空気が読めないところも可愛いだろ』と深川の声が蘇る。
可愛くなんてない。無神経過ぎる。自分がいまどんな気持ちでメッセージのやりとりをしているのかと考えて欲しいと思い、踏みとどまる。
(なんでこんなにモヤモヤするのだろうか)
言葉にできない靄が海璃の中に充満している。
それを名づけたらいままでの自分ではいられなくなるような恐怖があった。
そもそも酔った勢いでアプリを登録さえしなければ、榊とは普通の上司と部下でいられたのだ。
過去を嘆き、冷蔵庫からチューハイを出してぐいっと飲んだ。もうアルコールで目が回っているのにさらに酔いが加わって気持ち悪い。
思考回路もアルコールでやられて考えがまとまらない。
すべてを放棄して、スマートフォをベッドに投げ捨てた。
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