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第2話
翌日仕事が手につかなかった。
それもそうだ。昨日あんなことがあったから。ぼんやりとパソコンの画面を見ながら注文書を入力していたら、
「ちょっと待て!」
ガシッと手を掴まれて我に返った。顔をあげると新と目があった。
「数、間違ってないか?」
「え?嘘」
画面を見ると、105と入力するところを10005と入力していた。
「陽斗と喧嘩でもしたのか?」
「してません」
「じゃあ、何か言われたか?」
「……」
ドキッとしてキ―ボ―トを打つ手が止まった。
「図星か。おぃ、なんで泣くんだ?」
「泣いてなんか……」
新に言われてはじめて泣いていることに気付いた。
まわりの社員の目がチクチクと痛い。
「ここじゃああれだから」
新に腕を掴まれてそのまま休憩スペースに連れていかれた。
「微糖でいいか?」
自動販売機で購入した缶コーヒ―を渡された。猫舌の僕のために冷たいのを買ってくれた。
「陽斗となにがあった?話したくなら無理に話さなくていいけど」
「新、陽斗に言わないって約束してくれる?」
「言わない。約束する」
新と陽斗は従兄弟同士。すごく仲がいい。ちょくちょく家に遊びに来るけど、泊まったりはしない。
一瞬悩んだけど、新に昨日のことを正直に話すことにした。
「そうか、そんなことがあったんだ。気まずくて陽斗の顔を見たくないだろう?」
缶コーヒ―を両手でぎゅっと握り締め、小さく頷いた。
「今日は金曜日だろ?日曜日までうちにいていいよ。俺のほうから適当な理由をつけて陽斗に連絡しておくから」
「迷惑じゃない?」
「ぜんぜん。困っているときはお互い様だし。気にするな」
「うん、ありがとう」
苦いのが苦手なはずなのに。新の優しさにほんわりと心があたたかくなって。苦いはずなのに不思議と甘く感じた。
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