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第10話
「あの~~陽斗さん」
「絢斗さんいたんですか?こんなところで会うなんて奇遇ですね。全然気付きませんでした」
「いやいや、本当は気付いていたよね?」
「いいえ。俺、湊しか見てませんので」
「湊しか眼中にないのは最初から分かっているよ」
「分かっているならいちいち言わないでいただけますか?それと」
陽斗はそこで言葉を止めると、絢斗さんを睨み付けた。
「湊に余計なことを言わないでください」
「余計なことじゃないと思うんだけど」
「余計なことですよ。確か前も言いましたよね」
「言ったかな?」
「言いましたよ。とぼけないでください」
険悪なムードが漂う。陽斗はなぜか絢斗さんを嫌っている。
「あれ?陽斗じゃないか」
思わぬ助け船を出してくれたのは凱さんだった。
「おはようございますおじさん。ご無沙汰しております」
すっと立ち上がるとにこりと微笑み軽く会釈する陽斗。
「こんなところで会うなんて奇遇だね」
「コ―ヒ―を買ってから出勤しようと思ったら、たまたま偶然、湊を見掛けて。それで声を掛けたんです。湊がまさか絢斗さんと一緒だと思わなくて。絢斗さん、おはようございます。挨拶が遅れてすみません」
作り笑いを浮かべる陽斗。絢斗さんとは視線を一切合わせなかった。
そこへ遅れて新が姿を現した。
絢斗さんの表情を一目見るなり何があったかすぐに察した新。陽斗を睨み付けた。
どんなに睨まれようが陽斗は余裕綽々としていた。まったく動じなかった。
「ねぇ湊、新も忙しいだろうから、迷惑になるから、今日は泊まらないで帰ってきたら?遅くなっても俺はぜんぜん構わないよ」
顔を覗き込まれ、頭をぽんぽんとやさしく撫でられた。
「俺はぜんぜん忙しくないし、それに迷惑じゃない。湊さえ良かったらうちにずっといてくれても構わない。そう思っているよ。それに会社まで近いし」
きつく眉をつり上げる新。まさに一触即発の状態だった。
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