10 / 71

第10話

「あの~~陽斗さん」 「絢斗さんいたんですか?こんなところで会うなんて奇遇ですね。全然気付きませんでした」 「いやいや、本当は気付いていたよね?」 「いいえ。俺、湊しか見てませんので」 「湊しか眼中にないのは最初から分かっているよ」 「分かっているならいちいち言わないでいただけますか?それと」 陽斗はそこで言葉を止めると、絢斗さんを睨み付けた。 「湊に余計なことを言わないでください」 「余計なことじゃないと思うんだけど」 「余計なことですよ。確か前も言いましたよね」 「言ったかな?」 「言いましたよ。とぼけないでください」 険悪なムードが漂う。陽斗はなぜか絢斗さんを嫌っている。 「あれ?陽斗じゃないか」 思わぬ助け船を出してくれたのは凱さんだった。 「おはようございますおじさん。ご無沙汰しております」 すっと立ち上がるとにこりと微笑み軽く会釈する陽斗。 「こんなところで会うなんて奇遇だね」 「コ―ヒ―を買ってから出勤しようと思ったら、たまたま偶然、湊を見掛けて。それで声を掛けたんです。湊がまさか絢斗さんと一緒だと思わなくて。絢斗さん、おはようございます。挨拶が遅れてすみません」 作り笑いを浮かべる陽斗。絢斗さんとは視線を一切合わせなかった。 そこへ遅れて新が姿を現した。 絢斗さんの表情を一目見るなり何があったかすぐに察した新。陽斗を睨み付けた。 どんなに睨まれようが陽斗は余裕綽々としていた。まったく動じなかった。 「ねぇ湊、新も忙しいだろうから、迷惑になるから、今日は泊まらないで帰ってきたら?遅くなっても俺はぜんぜん構わないよ」 顔を覗き込まれ、頭をぽんぽんとやさしく撫でられた。 「俺はぜんぜん忙しくないし、それに迷惑じゃない。湊さえ良かったらうちにずっといてくれても構わない。そう思っているよ。それに会社まで近いし」 きつく眉をつり上げる新。まさに一触即発の状態だった。
ロード中
ロード中

ともだちにシェアしよう!