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第12話
鞄の中を整理していたら、
「やっぱり陽斗のところに帰るんだ」
不機嫌そうな新の声が聞こえてきたからドキっとして顔を上げると、濡れた髪をタオルで拭く新と目があった。
「違う、月曜日の会議の資料を持ち帰ってきたから」
「見せてもらってもいい?」
新が隣にしゃがみこんできた。パラパラと書類の束を捲ると、
「これ湊の仕事じゃないよね?」
ぴしゃりと言われた。
「椿原さんのお母さんの具合が悪いから協力してくれって部長が……」
椿原さんは二ヶ月前に中途採用で入社してきた。社内研修を終えて生産管理部の総務課に配属された。T大学ミスキャンパスに三年連続で優勝したと自分から自慢げに話して、男性社員からはチヤホヤされているけど、女子社員からの評判はすこぶる悪い。揉め事は避けたいから、なるべく関わらないように避けてきたはずなのに、最近どういうわけかことあるごとに生産管理部の葉山部長に呼び出されて、椿原さんの仕事を押し付けられて、自分の仕事が出来ないから残業が増えるといった悪循環になっている。なんて新には口が裂けても言えない。これ以上迷惑を掛ける訳にはいかないから。
「文章はある程度纏まっているからあとはパソコンに入力するだけだからそんなに時間はかからないと思う」
パソコンを鞄から取り出した。
「だから荷物が多かったんだ。入力しておくからお風呂に入ってきたら?」
「でも悪いよ」
「早く終わればその分早く寝れるだろう?俺が手伝えることは手伝うから遠慮せずに言ってくれっていつも言ってるだろ?」
「分かった。じゃあお願いします」
新に頼んでお風呂に向かった。三十分後お風呂からあがると、
「入力終わったよ。これ借りてていい?明日には返すから」
ピンク色のUSBメモリを見せられたら驚いた。さすがは新。営業のエ―スだけあって仕事が早い。
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