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第15話

「どうした?」 見晴らしのいい高台にある築二十年の瀟洒な五階建てのマンションが湊の実家だ。一階は貸し店舗になっていて、凱さんと絢斗さんは三階の角部屋に住んでいる。 「なんだか緊張してきた」 「なんで?湊にとってうちは実家みたいなものだろう?」 「それはそうなんだけど」 エレベーターが設置されていないから階段をゆっくりと登った。新も気を遣ってくれて、大丈夫?辛くないか?何度も声を掛けてくれた。 「新、湊、お帰り。待ってたよ」 「父さん、俺なんて言いましたっけ?」 「だっておとなしく待っていられないよ。湊が遊びに来るなんて年に一回か二回だろう?陽斗が会わせてくれないんだもの。駄目、用事がある。駄目、忙しい。どんなに頼んでも駄目、駄目。しまいには俺と凱に会わせたくないだよ。ひどいと思わないか?」 「分かったから階段の真ん中で通せんぼうをしないでくれる?」 「あ、ごめん」 新と絢斗さんのやりとりは見てて楽しい。 「新、湊、お帰り」 玄関のドアを開けて凱さんが笑顔で待っていてくれた。 楽しい時間ほどあっという間に過ぎていく。 実は料理が苦手なんだと言いながらも絢斗さんが腕によりをかけて作ってくれた料理はどれも美味しかった。食後にパンケーキとミルク多めのカフェオレを飲みながら和気あいあいと談話していたら、 「湊、秘書検定を受験してみないか?」 不意に凱さんに聞かれた。 「兄は息子たちが大学を卒業したら社長を辞めて海外に移住してのんびり過ごしたいそうだ。俺が次期社長になるか、もしくは新が社長になるか、それは誰も分からない。でも今から準備出来ることは準備しておいたほうがいいと思うんだ。湊には秘書として俺と新を支えて欲しい」

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