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第27話

午後からミ―ティングや打合せがあり、生産管理部の人がまばらになる瞬間を狙っていたのも知れない。 「桜井、これ宜しく」 葉山部長が何も書かれていない領収書を机の上に置いた。 「葉山部長、何も書かれてませんが」 「あれ?おかしいな。そんな訳ないだろう」 「でも部長……」 顔を上げた瞬間、冷たい水を頭に掛けられていた。何が起きたか理解するまで時間がかかった。 「桜井さんが急に振り返るから悪いんですよ」 「そうだ、椿原くんの言う通りだ。いつもぼぉっとして仕事をしているからだ。目が覚めただろう。椿原くんに感謝しろ」 僕を馬鹿にするように笑う二人。 ハンカチで顔を拭こうとしたら、 「冷たい」 また水を掛けられた。 「あら、やだ。ごめんなさい。手が滑っちゃった」 雑巾で顔を拭かれそうになり、思わず手で払うと、 「痛い!わざとじゃないのに叩くことないでしょう。ひどい」 「桜井、何してんだ!」 葉山部長の怒鳴り声がしんと静まり返ったオフィス内に響いた。 「大丈夫か、赤くなってるじゃないか」 椿原さんの手を取ると、手の甲を撫でた。 「やだ、くすぐったい」 「くすぐっていないだろう」 一目もはばからずイチャイチャする二人。 「下手な芝居して。馬鹿みたい。大丈夫?」 ハンカチを差し出してくれたのは土居さんだった。 「ありがとう。あれミ―ティングは?」 「忘れ物をして戻ってきたら二人が一緒にいて、嫌な予感がしたからあとをつけたの」
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