28 / 130

第28話

「そういえば部長、副社長が呼んでましたよ。午前の会議に遅れて、午後の打合せにも遅れるとは何事だ。けしからんとカンカンでしたよ」 「午後に打合せなんかあったかな?」 不思議そうに首を傾げる葉山部長。 その時、ゴホンとわざとらしい咳払いが聞こえてきて。土居さんの後ろに凱さんの秘書である安永さんがタオルを手に真顔で立っていたから心臓が止まるんじゃないか、そのくらい驚いた。いつからいたんだろう。気配をぜんぜん感じなかったからまったく気付かなかった。 「葉山部長、会議室に急いでください」 安永さんは唯一の男性秘書だ。女性が苦手な凱さんが生産技術部のエ―スだった安永さんを秘書に抜擢した。 ノンフレ―ムの眼鏡の下の素顔はまるで能面のようだと揶揄されている安永さん。職人気質で口数が少なく滅多なことでは笑わない。人を寄せ付けないオ―ラがただ漏れで、凱さんを守るためなら手段を選ばない。だからみんななるべく関り合いを持ちたくないみたいだった。 「椿原さん」 語気を強め、椿原さんをじろりと睨み付ける安永さん。 「あ、そうだ。私も用事を思い出した」 逃げるようにそそくさとあっという間にいなくなった。 「災難でしたね。良かったら使ってください」 手に持っていたタオルを渡された。 「陽斗さんをお呼びしましたから、すぐにいらっしゃると思いますよ」 「え?」 耳を疑った。 「だって着替えが必要でしょう?」 「それはそうですけど、陽斗も仕事中なはず」 「事情をお話ししたらすぐに向かうと。過保護なのは相変わらずですね」 安永さんが微苦笑を浮かべた。

ともだちにシェアしよう!