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第29話

「陽斗をいちいち呼ばなくてもいいのに。面倒なことになるのが分からないんですか?」 「それは副社長に言って下さい」 松永さんは新に何を言われようが飄々としていた。 「掛けられたのが水で本当に良かった。土居さんから連絡が来たときは生きた心地がしなかった。風邪をひくと大変だから」 新が着ていたジャケットを脱いで肩にそっと掛けてくれた。 「救急車を呼んだら警察沙汰になりますからね。もし万が一にでも顔に火傷を負わせてあとが残ったらとんでもない金額を請求されますからね。椿原さんもそこまで馬鹿じゃなかったということでしょう。新さん、あなたに言い寄ってフラれた腹いせに湊さんに幼稚な嫌がらせをしているのなら、椿原さんに分からせてあげるいい機会だとは思いませんか?」 「何を企んでいる?」 「別になにも。ちょっとしたお仕置きですよ」 不敵な笑みを浮かべる安永さん。 「本当のことを知ったら椿原さん、真っ青になるんじゃないの」 騒ぎを聞きつけた川瀬さんが打合せを早めに切り上げると様子を見に来てくれた。 「それ以上は禁句です」 「なんで?なんで?障害があったほうが燃え上がるじゃないの?運命に抗う恋なんて素敵じゃないの」 ぱちんと両手を叩く川瀬さん。この状況を楽しんでいるとしか思えない。
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