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第30話
吉人さんが僕を養子にするために家に迎え入れた。陽斗は友達が出来た、陽斗の弟たちはお兄ちゃんが出来たと喜んでくれたけど、妻の杏南《あんな》さんだけが異を唱えた。
見たこともないような大金が絡むと人は変わるということを当時十歳だった僕は嫌でも知った。
母も、母の再婚相手も、杏南さんも。吉人さんも優しい言葉は見せかけで、みんな嘘つきだ。
父を失い、どこにも居場所がなくて、宙ぶらりん状態だった僕を、凱さんが養子に迎えてくれた。だから戸籍上僕は新の弟になっている。
凱さんと絢斗さんは実の息子のように可愛がってくれる。陽斗と新はどんなときでも側にいてくれる。なにも言わず寄り添ってくれる。
だから凱さんの愛人だと言われて腹が立った。
凱さんの養子になっていることは誰にも内緒だから、本当のことが言えなくて、それが悔しかった。だから余計に腹が立った。
なにも知らない男性社員は椿原さんの言葉を鵜呑みにし、俺らのひなちゃんを叩くなんて何を考えているんだと、小さな声でぶつぶつ言っていた。僕の顔を見てひなちゃんをいじめるから自業自得だ、いい気味だとひそひそ話をしていた。
針の筵とはまさにこの状態を言うんだろうな。
「気にしないの」
「そうだよ。そのうちバチが当たるから」
「ありがとうみんな」
椿原さん以外の経理と総務の女子社員は土居さんから話しを聞いたみたいで僕の味方をしてくれる。それが唯一の救いだった。
そんなとき川瀬次長からショートメッセージが送信されてきた。
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