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第31話
休憩スペースにすぐに来るように。そう書かれてあったから仕事を中断して急いで休憩スペースに向かった。中をそっと覗くと、陽斗が新と川瀬さんと立ち話をしていた。
「普通なら帰るのにその状態のままで仕事を続けている。本当に真面目な社員だって人事課長が褒めてたわよ」
川瀬さんがすぐに僕に気付いて声を掛けてくれた。
「月末が近いので入出金伝票の入力だけはしておかないとと思って……」
「湊以外の生産管理部の男性社員全員の人事評価を下げるぞって課長が一喝したらみんな黙り込んだみたいよ。葉山部長も社長からがっつり注意されたみたいだしいい気味だわ。どうしたの浮かない顔をして」
手放しでは喜んではいれない。いつまた仕返しをされるか分からない。今度こそお湯を掛けられるんじゃないか、階段から突き落とされるんじゃないか。それが怖かった。
「仕返しを倍返しでされるんじゃないか、湊はそれが怖いんですよ」
陽斗がつかつかと寄ってきて。僕の顔や首のあたりを念入りに何度も確認したのち、
「良かった。無事で……」
ぎゅっと抱き締められた。
「は、陽斗!」
新と川瀬さんがいるのに。この状況は絶対にまずいって。
「安永さんから連絡が来たときは生きた心地がしなかった」
「ごめんなさい」
「なんで謝るの?湊は悪くないだろ?」
「だって陽斗も仕事中だったんでしょ?」
「ランチタイムが過ぎてちょうど休憩に入ったところだったから」
陽斗が腕の力を緩め体をゆっくりと離した。
新がどんな顔をしているのか見るのが怖くてずっとうつ向いていた。
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