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第33話

「これクリーニングに出してから返すって新に伝えておいて」 ジャケットをかかげる陽斗。 「なんで新のだって分かったの?一言も言ってないのに」 「何でって言われても困るんだけど見れば分かるよ」 ビニールの手さげ袋に入れようとしたとき、 「わざわざクリーニングに出さなくていい」 新が飛んできた。 「なんで?」 「ちょこっとだけだろ?着ていたの。だからいい」 「いや、だって」 「本当にいいから」 ジャケットを陽斗の手から取る新。 「だってそれ、湊の温もりと匂いつきだもんな」 「陽斗みたいな変態と一緒にされては困る」 「類は類を呼ぶってよく言うだろ?」 「は!?」 一日一回は喧嘩をしないと気が済まないのかな、この二人は。仲がいいんだか、悪いんだか、よく分からない。 エレベーターをおりて正面の玄関に向かっている時に、後ろから陽斗にぶつかってきた人がいた。 「すみません、前をよく見てなくて」 その人は椿原さんだった。 「リップ付いちゃったんですけどごめんなさい。弁償しますので連絡先とか聞いちゃっていいですか?それと、怪我とかしてませんか?」 上目遣いで陽斗を見る椿原さん。 わざとらしい態度で、よろぶって転びそうになり陽斗の腕を掴もうとしたけど、陽斗は反射的に体を逸らした。椿原さんはそのまま床にばたんと倒れた。 陽斗は一言も発することなく椿原さんを睨み付けた。
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