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第35話

いつもなら社員が誰かしか乗り込んでくるのに。この時間だからか誰も乗ってこない。まさか新と二人きりでエレベーターに乗るとはこれっぽっちも考えてなくて。心臓の音、聞かれてないかな。そのくらいドキドキしていた。 「そんなに意識されると期待したくなるだろ?」 困ったように苦笑いする新。 「ごめん、そういう訳じゃなくて……」 「じゃあ、どういう意味?」 「それは……」 言葉がうまく続かない。 「ちょっと意地悪な質問だったね。ごめん。どうせ勝ち目はないのに、陽斗にいちいち焼きもちを妬いてもしょうがない、それは頭では分かっているんだけど、どうしても諦められなくて」 新と不意に目が合った。 「ヤバい」 新が顔を両手で覆った。 「反則だろ、その顔」 その顔ってどんな顔をしていたんだろう、僕。ついさっきのことなのになにも覚えていない。 「可愛すぎる」 「新、もしかしてからかっている?」 「からかってない。俺はいつでも真面目だ。生産技術に用があるから先おりるね」 僕の顔を覗き込むと、くすりと笑いながら頭をぽんぽんと撫でた。絶対にからかっているとか思えない。 「ちょっと待って」 新と入れ違いに乗ってきたのは土居さんだった。 「さっきはありがとうございました」 「私なにもしてないよ」 ファイルの束を抱えながら土居さんがにこにこと笑っていた。もしかして新との関係を気付かれた?

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