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第36話

定時であがり会社を出ると陽斗が待っていてくれた。 「珍しいな、一人なんて」 「新は残業。新型の金型の立ち上げに立ち合っている。月締めの忙しくなる前だから定時であがれるときはあがって下さいって課長が」 「そうか」 葉山部長と椿原さんは子会社に異動させられるみたい。陽斗と別れたあと仕事に戻ったら凱さんから社員全員に一斉にメールが送信されてあったんだ 「火のない所に煙は立たぬとよく言うからな」 「それは分かるけど、絢斗さんに失礼だよ」 僕が副社長の愛人だからえこひいきされていると社内だけでなく取引先までまことしやかに囁かれているということをメールを見てはじめて知った。それは根も葉もない嘘で、愛人でなく実際は養子で次男。副社長の息子、社長の甥と色眼鏡で見られるのを避けるためにあえてその事実を伏せた。 葉山部長はそのメールを見て出世の夢は絶たれた、嘘だろうとがく然として膝から崩れ落ちた。 「夕御飯なに食べる?たまには外食にする?」 「外食より陽斗が作ってくれるご飯がいい」 「嬉しいことを言ってくれるね。しかも間髪いれずに答えてくれるなんて。湊らしいね」 「ごめん。自分が楽することばかり考えて。陽斗だって疲れているのに、自分勝手だよね」 「そんなことないよ。新が作るご飯より俺が作るご飯のほうが美味しい、そう湊に言ってもらえるように頑張るよ」 陽斗がくすりと笑んだ。
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